2011年2月3日ニュー・デリーで行われた気候変動と持続的開発に関する大規模な会議(DSDS 2011)で、ジェフリー・サックス教授は筆者を含む400人近い聴衆を前にして叫んだ。「米国は過去19年間に気候変動で実質的なことは何一つしてこなかった。昨年上院はCO2排出規制立法を拒否した。この背後には、原油・石炭資金に由来する big money が動いている。世界最大の宣伝マシーンが動員されて、反科学キャンペーンが横行し、国民を攪乱している。ルパート・マードックがその張本人だ。フォックスTVや『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙、英国のタブロイド紙等が、彼の膨大な資金のもとで気候変動の科学に攻撃をかけている」と。ジェフリー・サックス教授が公衆の面前で米国有数の高級紙とされる『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙を糾弾したこと自体が、深刻な問題提起だ。この新聞の所有者はルパート・マードックであり、この新聞は今や気候変動否定論ないし懐疑論の牙城と化している。ではルパート・マードックとは一体誰か?何故この人物が問題なのか?公開情報で纏めると以下のようになる。同教授が多分知っていることの一部に過ぎないが。
周知の通り、ルパート・マードックは、1931年豪州生まれの米国人でニュース・コーポレーション(通称 News Corp)と云うウォルト・ディズニー、タイム・ワーナーに次ぐ世界第三の巨大メディア会社の社長である。同人は、『ウォール・ストリート・ジャーナル』(USA Todayを抑え、現在米国最大の発行部数を誇る)、『ニューヨーク・ポスト』、『タイム』、『サンデー・タイム』、『サン』等、世界の175の新聞を所有している。有名出版社ダウ・ジョーンズやハーパーコリンズも所有している。テレビでの影響力は、更に大きなものがある。米国では、フォックスTVや Twentieth Century Fox Studio等35のテレビ局の所有者である。これは、米国のテレビ局の40%以上になる。この他19局のスポーツ・チャンネルを所有している。結局米国の5世帯の内1世帯は、常時 News Corp の供給する情報を見ているとされている。フォックスTVは、イラク戦争での積極報道で「陰の勝者」とされた。フォックスTVは、視聴率でCNNを抜いているとされる。フォックスTVの視聴者は、若い世代の保守派が多い。なお最近、英国のスカイTVの買収にも成功した。(つづく)