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2008-05-29 09:53
(連載)サブプライムローン問題と少数者の結託の可能性(2)
池尾愛子
早稲田大学教授・デューク大学客員研究員
社会的に別の問題として、こうした「すべきではない融資」が証券に組みこまれていることを認識して、取引に参加していた人たちが、比較的少数だったことが指摘されている。最近の個人的な経験に照らして、大胆に推測してみたい。もし彼らがそれぞれ単独で、独立した予想の下で取引を行っていたのであれば、担保証券の価格はそれほど上がらず、格付けも揺らぐことがなかったかもしれない。しかし、もし彼らの一部が結託すれば、格付け機関を出し抜くほど相場を動かせる可能性があるかもしれない。この推測があまりに短絡的であるとすれば、情報を得た玄人筋の取引参加者が各自で、他の玄人筋の取引行動を予想しながら、自分の取引行動を決定するような状況が発生していた可能性が高い、となら考えられるかもしれない。
後者は、経済学者のJ・M・ケインズがかつて「美人投票の結果を予想するコンテスト」と呼んだ状況であり、少数の玄人筋の予想が一致すれば、あたかも結託したかのような結果を生み出しうるのである。彼らは問題証券を売り抜けて、異常な利益を上げた可能性があり、他の金融機関は実際に損失を被ったのである。これは、「すべきではない融資」がなければ発生しなかった利益や損失であるが、「すべきではない融資」を受けた側の返済の問題とは切り離して、考察されるべき問題なのである。最近の経験というのは、2007年9月27日に本欄への投稿「国際派人材育成と『情報滝』現象」(369号)に書いたことと関係する。件の異端研究者のトップたちに、専門違いの私が、彼らのための会議の組織、資金調達は不可能であると個別に説くことによって、ほぼ説得できたかに見えていた。にも関わらず、結託して会議組織者は、会議当日にいればよい(だけだ)とまで言い出して、特定の人物の名前を挙げることによって、日本での資金集めの問題を全く隠蔽して、国際会議経験の少ない研究者たちを翻弄したようである。
国際会議を開催するにはお金がかかり、組織者は資金調達の責務を負うので、会議当日にいるだけでは済まないのである。アメリカ人なら大学院生でも、国際会議を組織する際の問題はまず資金である、と指摘する。学会が絡む国際会議の組織や資金調達は、その会長か会長経験者の任務である。現代の主流経済学に批判的であったとしても、「個人の自由」を踏みにじる行為は許されないはずである。影響力のある人たちが少数で結託すれば、多数の人たちを短期間なら翻弄できる、あるいは騙せる、という一例になったかもしれない。一度学習すれば、二度と起こることではないとは思うが、現実に身近に起こったことであり、若手研究者に動揺があるかもしれないので、記させていただく次第である。(おわり)
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