ホーム
新規
投稿
検索
検索
お問合わせ
2026-01-09 16:42
(連載2)「グランド・バーゲン(Grand Bargain)」と「C5構想」と「気候危機」の位相
古屋 力
地球環境学者
こうした心理的影響の根底には、大国間にある「情報の非対称性(information asymmetry)」がある。疑心暗鬼の種である。大国間における軍事衝突の潜在的リスクが払拭できない実態に鑑み、危険な意思決定前に立ち止まり結論を急がずに潜在的脅威に関するあらゆる客観証拠を慎重に評価することが肝要である。そのためには、当事国間にある「情報の非対称性」を解消する工夫が必要である。「情報の非対称性」を解消する最善の処方箋は相互に正確なコミュニケーションを担保できる環境を確保することである。
こうしたミス・コミュニケーション・リスクを回避するため過去にもホットライン(hotline)敷設等の工夫が試みられてきているが、緊急ホットラインだけでは、心もとない点については、スタンリー・キューブリック(Stanley Kubrick)監督の有名な映画『博士の異常な愛情』 で、その限界と漸弱性が見事に暴かれている。
「情報の非対称性」を解消する最善の処方箋としては、欧州連合(EU)のように一体化し不可分な「連合体」になることが理想形ではあろうが、現下の大国間では現実的ではない。セカンドベストとして考えられる最適な工夫としては、結局、「C5構想」のような「大国間の定期的な会合」が有効になろうが、「C5構想」は筋が悪いし実現可能性も低い。その代わり「C5構想」を上手に「改良」して「好戦志向的な物騒できな臭い力の政治の場」から「平和志向的な知的で穏やかな政治の場」に止揚(aufheben)させることが最短の近道であるのかもしれない。その実現のためには、いかなる具体的方途があるのであろうか。
ここで、「C5構想」の代替案として「C5」を「C10」にする「C10構想」を提案したい。日本のみならず世界全体の明るい未来ビジョンを担保する選択肢だと考えるからである。「C10構想」とは、「C5構想」が想定している米国、中国、ロシア、インド、日本の5か国に、さらに従来の「G7」参加国であるイギリス、ドイツ、フランス、イタリア、カナダの5カ国、そして参加機関としてEU(欧州連合)を追加した仕組みである。「G 7」から「C 5」ではなく「Core10」にシフトする構想である。むろん、この提案にはトランプは抵抗するであろう。しかし、この「C10構想」の意味は大きい。特に、メンバーの中に「核非保有国」の日本とドイツ、フランス、イタリア、カナダが入ることに重要な意味がある。これで「核非保有国」からの牽制が有効に働き、一方的な「力による政治」の議論の暴走を抑止でき、健全で持続可能なバランスがとれるからである。その実現には、G7で唯一のアジアの国家で唯一の被爆国である日本の果たす役割が大きいと考える。
この「C10構想」における中核的なアジェンダとして提案したいのが「気候危機対策」である。大国間の「力の政治のジレンマ」を解消させて、「好戦志向的な物騒できな臭い力の政治の場」から、「平和志向的な知的で穏やかな政治の場」に止揚(aufheben)させるために、アジェンダを、領土勢力図の調整の場ではなく、全球的な運命共同体としての視座にたった「気候危機」問題の早期解決を目指す協議の場に進化させるのである。
去年2024年の世界全体の軍事支出は約 2.7兆米ドル(約390兆円)で過去最高を更新したが、方や、気候変動対策コストの総額は約 1.3兆ドル年程度と見積もられている 。尊い人命を毀損し、環境破壊を加速し兵器と化石燃料の大量消費によって発生する温室効果ガスによる気候危機問題を加速させる「百害あって一利なし」の戦争に費やす軍事費で、気候危機対策が全球的に十分可能なのである。つまり、お互いに、疑心暗鬼に陥って相互に不毛な核戦争に突入する「地獄への道」に不可避的に繋がる不穏な権力闘争の場「C5」ではなく、共通の喫緊の課題であり、その早期解決がもたらす果実・メリットはもれなく全参加国が享受できることが自明である「平和への道」に繋がる気候危機対策を議論する未来志向的な場「C10」とするのである。そして、その席上では、再生可能エネルギー等のグリーン・イノベーションや国家間連携による協働開発の協議を軸として、参加国全体が経済的な果実を享受できる場とするのである。そこには不穏な空気も不健全なジレンマも一切ないはずである。
これは、夢想ではなく、近未来現実だと思っている。やればできると思っている。それ以外のアイデアは浮かばない。昨年2025年10月1日に逝去した動物行動学者で国連平和大使のジェーン・グドール(Dame Jane Morris Goodall)は、こう語っていた。「この惑星が暗闇の中にあっても、まだ希望はある。世界をより良い場所にするために力を尽くさねばならない。あなた方には、変化をもたらす力があるのです。」(おわり)
<
1
2
>
>>>この投稿にコメントする
修正する
投稿履歴
(連載1)「グランド・バーゲン(Grand Bargain)」と「C5構想」と「気候危機」の位相
古屋 力 2026-01-08 22:05
(連載2)「グランド・バーゲン(Grand Bargain)」と「C5構想」と「気候危機」の位相
古屋 力 2026-01-09 16:42
一覧へ戻る
総論稿数:4933本
グローバル・フォーラム