次に「パキスタンの主権侵害」についてですが、オサマ・ビン・ラディンへの襲撃というきわめて機密性の高い作戦を成功させるためには、パキスタンへの事前非通知はやむを得なかったと思います。そもそもパキスタンの軍部と情報機関の中には、タリバンやアル・カイダとつながりが深い人物もいるという強い疑いが持たれています。ロバート・ケーガン氏の著作 “Of Paradise and Power”に基づいて考えると、そうした状況下では「法と手続」を重んずるカントの論理よりも、力の立場を重視するホッブスの論理が適用されるのではないでしょうか。そもそも、私が再三にわたって主張しているように、パキスタンが、核保有国でありながら、軍事基地の町アボタバードでのオサマ・ビン・ラディンの潜伏を発見できなかったことは、大失態です。これが人里離れた北西辺境州やトライバル・エリアなら、まだ許容できました。今回の一件では「一体、この国は核兵器の軍備管理をまともにできるのか?」という強い疑念を抱かざるを得ません。これほどの脅威を考えると、もはやパキスタンの「主権の尊重」などと、悠長なことを言っていられるでしょうか?現在、パキスタン訪問中のケリー米上院議員も、さすがにここまでは言えないようです。この件について、米英がパキスタンの軍部や情報機関とのしがらみで本音を言いにくいなら、唯一の被爆国である日本こそ「核とテロのつながり」で深刻な懸念を伝えるべきでしょう。これは3・11地震以後の「日本外交の空白」を脱する好機でもあります。