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2022-09-07 12:35

(連載2)経産相「シリコンバレー詣で」の時代錯誤

大井 幸子 国際金融アナリスト
 このように、起業家は10-20年近くかけて新規事業を成功に導きます。その間、あらゆるリスクに晒され、苦労を味わいます。英語では”skin in the game”と言い、「自らがリスクと責任に肌身を晒さないと収益の価値がわからないし、他者からの信用も得られない」という意味に私は解釈しています。かつてモルガン・スタンレーの花形ストラテジストで金融界では有名人だったバートン・ビッグス氏は、2003年に退社して仲間とヘッジファンドを始めました。この時のことを振り返り、ビッグス氏は著書”Hedge Hogging”で「モルガン・スタンレーの看板があった時と異なり、独立して投資家から資金集めるのには大変苦労した」と回想しています。つまり、看板なしの一介のスタートアップになった瞬間、彼は一から自らの信用を再構築しなければならず、泥臭い苦労をしたのです。
 
 政府と大企業が作る「官民ファンド」には、この泥臭さ、運用当事者自らがリスクと責任を肌身に晒して資金を集める苦労がない。国民の税金や企業の資金はそこにあるし、ファンド運用に失敗しても投資家から罵声を浴びせられることもないし、クビになることもない。シリコンバレーから見ると、No skin in the gameの状態にあるのです。シリコンバレーの起業家たちはこのことを知っているので、日本から1千人来ようが、相手にしないだろうと思います。
 
 萩生田氏や経産省がなすべきことは、日本国内の優れた起業家を邪険に扱わないことに限ると思います。一例ですが、2012年にシャフトという東大発のベンチャー企業がありました。優れた歩行ロボットを開発したのですが、経産省から資金が提供されずに、2013年にグーグルにプレゼンに行き、すぐに100億円近い資金を調達し、その後買収されグーグルXの傘下に入りました。
 
 日本では優れた発明や技術開発、研究がたくさんあります。しかし、市場性を得るまでの資金の出し手がいないのです。理由は「そんなことは前例がない、既得権の邪魔になることをするな」がほとんどです。シャフトも「そんなにやりたければアメリカに行けばいい・・・」と言われたそうです。シリコンバレーに1千人送るよりも、まず自らの姿勢を正し、日本でリスクマネーを回すこと、そして一度事業に失敗しても再度挑戦できる「敗者復活」の道を作ることが先決です。(おわり)
 
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(連載1)経産相「シリコンバレー詣で」の時代錯誤 大井 幸子 2022-09-06 19:49
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