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2007-09-26 16:41
連載投稿(1)理論家と実証家の「階級闘争」
池尾愛子
早稲田大学教授
9月6-8日にパリ第一大学で開催された会議「知識としての一般均衡」に参加した。著名な経済理論家、計量経済学者、方法論家、経済学史家が集まり、標題のテーマについてそれぞれの発表をおこなった。会議自体、10年に1度あるかないかくらい優れたもので、会議組織者たちの数年の努力の賜である。経済学の中は専門分化していて、主流派内でも理論家と実証家は仲が悪く、プライドの高い理論家に対して、データと向き合う実証家が「階級闘争」を挑んできた歴史が語られた。理論家の置く制限的仮定に対しては、実証データから支持できないという鋭い批判が繰り返された。理論研究は1人でも実施可能であるが、実証研究となると以前は常にチームを編成しなくてはならなかったなど、研究スタイルの相違も注目された。パリ会議での議論はおおむね友好的であったが、経済学内部ではいつも知的闘争があり、それは長い間経済学者たちの人間関係にも少なからぬ影響を及ぼしてきたといえる。
パリ会議では一方で、理論経済学分野の宇沢の同値定理や根岸定理が、実証研究の基礎に利用されていることが複数の発表の中で触れられた。少し専門的な話になるが、宇沢の同値定理とは、経済学の中で定義される一般競争均衡の存在定理と数学の不動点定理の同値性を主張するものである。根岸定理は、適当な初期条件を与えることによって、ある一般競争均衡が、個別の最適化行動に基づく特定の社会厚生関数の極大値と同値になることを主張するもので、のちに計算可能な一般競争均衡(CGE)に関係させられる。実証家は、理論家と闘争しながらも、理論家の提出した定理を使ってきたのである。そして、若い研究者たちがこの会議から刺激を受けていたことも印象に残った。(つづく)
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