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2018-08-22 11:59
(連載2)泥沼のアフガニスタンからの「名誉ある撤退」は可能か
六辻 彰二
横浜市立大学講師
2018年1月、タリバンは首都カブールで外国人が多く滞在するホテルや大使館が多く集まる地域を相次いで襲撃。1カ月間に100人以上の死者を出した。この直後、トランプ氏は「我々はタリバンと対話していない。タリバンとの対話を求めてもいない。我々は終わらせるべきことを終わらせる」と言明。軍事力を前面に押し出した強気の姿勢をみせた。しかし、取りつく島のないほど強気の姿勢を見せ、その後に交渉に転じるのは、北朝鮮問題などでもみられたトランプ流の交渉術でもある。「対話を求めていない」と明言してわずか半年後、冒頭で述べたように、トランプ政権はタリバンとの接触を始めた。軍事力を増強し、対話を否定してきたトランプ氏には、「マウントポジションをとられたとタリバンに認めさせたうえで、有利な交渉に臨む」という計算があるのかもしれない。さらに、タリバンがISまでも相手にしなければならず、敵を減らしたい状況は、トランプ政権にとって追い風のようにも映る。とはいえ、状況はトランプ政権に有利とはいえない。ISの乱入によって敵を減らしたい状況はアメリカも変わらない。さらに、1月にカブールで相次いだテロ攻撃は、タリバン掃討作戦の限界を露呈した。
むしろ、交渉を早期にまとめる誘惑にかられやすいのは、中間選挙を控えたトランプ政権の方である。先述のように、アフガニスタン撤退はアメリカにとって、外交・安全保障上の問題であると同時に、国内政治の問題でもある。そのうえ、北朝鮮との交渉に具体的な成果が乏しく、イラン核合意を廃棄しても各国がこれに同調せず、シリアではロシアに優位に立たれているトランプ氏にとって、有権者に「アメリカを守るリーダー」をアピールできる手段は残り少ない。この状況下で進む直接交渉は、必ずしもトランプ政権のペースにならないとみられる。この観点からみれば、アメリカがアフガニスタン政府を交えず、タリバンと一対一で交渉していることは不思議でない。アメリカにとって重要なのは早期撤退だが、その最低限の前提として停戦合意は欠かせない。言い換えると、たとえ口約束でも停戦合意さえ成立すれば、アメリカにとって撤退の道は大きく開く。
これに対して、アフガニスタン政府の立場からすると、停戦合意だけでは全く不十分で、タリバンの武装解除や資金源となっている麻薬貿易の規制など、より踏み込んだ対応が欠かせない。しかし、これらはタリバンにとって呑むのが難しい。また、同国南部を実効支配するタリバンをどのように扱うのかも、アフガニスタン政府にとっては頭の痛いところだ。ISが勢力を広げていることもあり、アフガニスタン政府・軍は同国の30パーセントほどしか掌握していない。そのため、たとえ停戦合意が実現しても、現実的には南部をタリバンに委ねざるを得ないが、これまで戦闘を重ねてきた相手と権力を分け合うことは、アフガニスタン政府にとってハードルが高い。つまり、アフガニスタン政府とタリバンの間の交渉の難易度は、アメリカとのそれに比べてはるかに高い。
ただでさえ交渉で優位にたっていないトランプ政権が、仮にアメリカの負担軽減だけを考え、アフガン人同士の対立へのかかわり合いを避けるなら、合意がより容易な、アフガニスタン政府ぬきのタリバンとの一対一の交渉は合理的とさえいえる。ただし、それは結果的に、これまでの経緯をご破算にしてアフガニスタン政府を切り捨てることになる。泥沼のベトナム戦争から抜け出すにあたり、1973年にニクソン政権は、敵対する北ベトナム政府やベトコンだけでなく、それまで支援していた南ベトナム政府を交えたパリ和平会談で停戦に合意した。実際にはアメリカが疲弊しきっていたなか、格好だけでも「名誉ある撤退」を欲したニクソン政権にとって、各勢力との間で停戦合意を結んだことは、可能な範囲で最大限の成果だったといえる。ただし、それでも南ベトナム政府を切り捨てたことには変わらない。アフガニスタンの場合、交渉のプロセスからアフガニスタン政府を除き、アメリカの都合のみでタリバンと交渉を進めるなら、ベトナムと比べても「名誉ある撤退」にはほど遠い。のみならず、それはアフガニスタン政府とタリバンの間に横たわる困難な課題を放置することにもなり、この地の戦乱の加熱剤となり得る。アフガニスタンの将来はアフガニスタン人自身が作るべきであり、アフガニスタン和平には各勢力との交渉に基づく政治的解決が欠かせないとしても、タリバンとの単独和平交渉に基づくアメリカ軍の性急な撤退は、アメリカの名誉のみでなく、アフガニスタン和平をも遠ざけるものになりかねないのである。(おわり)
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六辻 彰二 2018-08-21 10:27
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六辻 彰二 2018-08-22 11:59
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