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2017-01-29 14:18
(連載1)貿易による利益と損失
池尾 愛子
早稲田大学教授
国際貿易が行われると、利益を得る人々がいる一方で、損失を被る人々がいる。貿易財と競合する財を生産する人々はかなり直接的な損失を被ることになる。多くの国々で工業化が進むと、最終財の貿易だけではなく、生産財(機械設備など)や中間財(部品・仕掛品など)、原材料の貿易も活発になる。そのほかに、国境を越えて移動しにくい生産要素の価格にまで影響が及ぶ。19世紀末から20世紀初めにかけて、国際貿易の経済厚生(welfare)に及ぼす効果についての考察が始まった。
国際貿易が自由に行われると、貿易財の価格には均等化する傾向がみられ、国際価格が成立する。では、貿易財の生産に使用された生産要素(労働、土地・原材料、中間財)の価格はどうか。スウェーデンのB.オリーン(1899-1979)が大作『貿易理論:域際及び国際貿易』(1933)で要素価格の動向を、数式を使いながらも散文的に論じたとき、各国で原材料などの生産要素の賦存量に差異があるので、たとえ貿易が自由に行われても、生産要素の価格は均等化しない、あるいは部分的にしか均等化しない、という主張を含めていた。これは、要素価格部分均等化定理と呼ばれるようになる。各国の間で、労働、土地、資本などの生産要素賦存量に相違があれば、各国は相対的に豊かな生産要素あるいはそれを利用した生産物を輸出し、相対的に貧しい生産要素またはそれを利用した生産物を輸入するような形で、貿易パタンと生産パタンが決定される。
アメリカのポール・サミュエルソン(1915-2009)は、オリーンの『貿易理論』(1933)を読んで、(貿易対象ではない)生産要素の価格の動向に興味を覚え、1938年から経済専門誌に論文を投稿して数学モデルの構築に挑んだ。そして制限的な諸仮定が必要であったが、生産要素の国際移動がなくても、最終財の自由貿易は、貿易パートナー国間の同質的生産要素の絶対的・相対的所得の均等化をもたらすモデルを構築することができた。これは、サミュエルソンの要素価格均等化定理と呼ばれる。
次に、最終財の自由貿易が行われても、最終財価格と要素価格が均等化しない場合、その理由は何かが考察された。その理由として、輸送費用の存在、天然資源賦存量の格差、労働賃金に対する規制の相違、資本費用の差、技術格差が注目されてきた。(つづく)
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(連載1)貿易による利益と損失
池尾 愛子 2017-01-29 14:18
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池尾 愛子 2017-01-30 00:14
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