宗教が違うので、スミスは日本の経済学の基礎であると、歴史的には言えないと思う。尊徳なら国際学会があり、日本で日本語で一般公開大会を開催すると200人かそれ以上参集するのである。明治期に3万部を売った『経済原論』の著者天野為之(早稲田大学)が、先駆的に尊徳や近世の経済思想家たちに注目していたので、拙著では、スミスを論じることなく、日本の経済学の基礎を論じられたのである。今月の書評者は、「東西文明の融合」(Harmonization of Western and Eastern Culture)のスローガンが大隈重信に由来することも気づいてくれた。東京帝国大学で天野に経済学を教授したのはE・フェノロサであったが、彼の推薦図書リストの中にスミスが入ったことはない。