我が国のような先進国の立場からすると、新興市場国の台頭は賃金をなかなか引き上げにくい環境を作り出すが、だからと言ってそこで立ち止まっているべきではなく、そうであればこそ新興市場国との差別化を図り、一段と付加価値の高い経済を目指していく必要がある。さらに、貿易論の第一人者であるエルハナン・ヘルプマンは、いくつかの実証分析を紹介しつつ、米国における所得格差は新興市場国との貿易拡大による影響よりも、技術進歩が大きな影響を及ぼしていると述べている(「The Mystery of Economic Growth」)。我が国においてもそうであるとすれば、一部だけが技術革新の果実を享受するのではなく、全体として生産性を向上させていくような経済社会システムを構築していかなければならない。