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2007-03-05 00:00
「格差社会」をめぐる議論とグローバル化の進展の視点
村上正泰
日本国際フォーラム研究主幹
近年、「格差社会」をめぐる問題が内政上の最重要課題となっている。我が国はかつて「一億総中流社会」とも呼ばれていたが、1998年に橘木俊詔京都大学教授が『日本の経済格差』で指摘して以来、貧富の格差の拡大についてさまざまな論争が行われてきた。データをどのように解釈するかなど統計上の技術的な問題も指摘されているが、国民のあいだに格差が拡大してきているという共通認識が広がりつつあることには間違いない。こうした中にあって、政府・与党は「再チャレンジ推進」「成長力底上げ戦略」を打ち出し、他方で民主党は「格差是正緊急措置法案」を提出するなど、大きな争点になっている。
このように「格差社会」が大きな問題となっている背景には、もちろん我が国におけるセーフティ・ネットの機能低下が挙げられる。税制・社会保障制度による公的な所得再配分機能は、累進税率緩和、保険料引き上げ、給付削減に伴い、大きく低下してきている。また、非正規雇用の増大に象徴されるように、これまで広い意味でセーフティ・ネットとして機能してきた我が国の安定的な雇用システムも変化してきている。これらの要因が「格差社会」をもたらしていることは否定できず、国内におけるセーフティ・ネットのあり方を考える必要があることは言うまでもない。
しかしながら、同時に認識しておくべきは、格差という問題は決して我が国だけで生じているのではなく、欧米各国や新興市場国においてもまた問題となっているということである。そして、国際的に格差問題が生じている背景には、廉価な労働力を抱えた新興市場国が世界経済システムに統合されつつあること、ITをはじめとする技術進歩が世界的規模で急速に進展していることなどが挙げられる。したがって、「格差社会」に対してどのような方策を講じていくかを考える際、経済のグローバル化の進展という視点を失ってはならない。いまやいかなる内政問題も国際環境と無縁に論じられないのである。
我が国のような先進国の立場からすると、新興市場国の台頭は賃金をなかなか引き上げにくい環境を作り出すが、だからと言ってそこで立ち止まっているべきではなく、そうであればこそ新興市場国との差別化を図り、一段と付加価値の高い経済を目指していく必要がある。さらに、貿易論の第一人者であるエルハナン・ヘルプマンは、いくつかの実証分析を紹介しつつ、米国における所得格差は新興市場国との貿易拡大による影響よりも、技術進歩が大きな影響を及ぼしていると述べている(「The Mystery of Economic Growth」)。我が国においてもそうであるとすれば、一部だけが技術革新の果実を享受するのではなく、全体として生産性を向上させていくような経済社会システムを構築していかなければならない。
このように考えると、「上げ潮戦略」に代表される安倍内閣の経済政策は、不十分な点はあっても、さほど的外れのものとは言えないようにも思われる。問題は、「経済成長なくして財政再建なし」と言いながら、実際には財政再建の呪縛にとらわれ、中小企業対策をはじめとしてほとんど大きな変化が見られないことであり、にもかかわらずその一方で、生産性向上の効果がすぐにでも現れるかのような極めて楽観的な発想をしていることにあると言えよう。
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