市場が経済活動の相互調整の機能を見事に果たしてくれ、政府は経済過程に介入しない方がよい、つまり自由放任でよいのならば、経済学は大学での教育科目にも研究対象にもならなかったであろう。2015年末に出版された『市場の失敗と経済学』(Market Failures in Context, edited by A Marciano and S. Medema)は、19世紀終盤のイギリスで貿易政策に関する謬見に対して反論することから積極的な議論が始まり、さらにアメリカにおいて、市場がうまく機能しないケースを取り上げて、その解決策が提示されることによって、経済学が政治的地位を獲得したとする。本書での過去の議論の中に、現代の議論と重なる部分があるので適宜拾い上げて紹介しておきたい。