福澤が西洋文明を語る時、しばしばミルの『自由論』(On Liberty、1859年)を参照している。福澤の議論を読みながら、今から10年以上前に、友人のヨーロッパ人研究者たちが言っていたことを思い出した。「日本人が西洋思想を研究する場合、ミルの On Liberty は必ず読んでほしい」という主旨だったと思う。「西洋思想を研究していないので、あなたに言っても仕方がないことでしょうけれど」と但し書きがついていた。
ミルの著作の多くには宗教の影響がほとんど出ないようであるが、『自由論』だけは特別で、他のどの著作家が書いたものと比べても特定宗教にどっぷりとつかっているといえるようだ。西洋文献も和訳になると特定宗教の色合いがかなり薄まることが多いが、On Liberty は例外で、和訳になっても宗教色が強烈に残っている(正直にいうと、On Liberty は私のてこに合わない)。