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2015-07-27 14:26
(連載1)安保法制の政治的意味合い
三浦 瑠麗
国際政治学者
安保法制をめぐる議論の政治性が高まっています。安倍政権の支持率が低下する中で、安保法制をきっかけとする政局論を展開する識者も出てきました。総裁選を控える自民党内での発言や、総理の祖父である岸信介元総理が安保改定と刺し違えて退陣したことも念頭においているようです。
しかし、私はこのような見方に対して懐疑的です。議席数で他を圧倒する政権にとっての本質的な脅威は、与党内、特に自民党内の離反ですが、そこでは、安保法制をめぐる議論が与野党の泥試合となり、古い対立に新しいエネルギーが注がれたことで、むしろ求心力が高まっているようにさえ見えるからです。小泉進次郎氏の発言も、石破茂氏の発言も、政権にダメージを与えることを意図して発されているのではなく、支持者向けであることは明らかです。穿った見方をすれば、そのような抑制的発言は単なる観測気球であるか、ガス抜きの意味しかないでしょう。つまりは、本音を開陳することでメディアの注目を集める議員の存在はオーケストラの中のパーカッションのようなもので、本筋に影響を与えるものではありません。
もちろん、低支持率が持続するようなことがあれば、自民党内もざわついてくるかもしれません。国会で与党推薦の参考人が違憲との陳述をしたときには、一瞬、凍りついた空気が流れました。あのあと一週間は、有識者の多くも「時間よとまれ」というふうな状況にあった気がします。政権としては、様々な浮揚策を準備していることでしょう。国立競技場の問題もそうでしょうし、70年談話、沖縄、北方領土、拉致被害者調査の問題など国民の関心の高い懸案が続いています。中でも、最大の懸案は景気動向であり、消費税増税へと向かう経済運営となるはずです。
政権基盤への影響を考える際には、近年の日本政治をめぐる構造を理解する必要があります。選挙制度のあり方や、一票の格差、政党のイデオロギー的配置を前提とすると、日本政治の方向を決する有権者の約7割はハードコアからマイルドまで、保守的な嗜好を持っています。政権からすれば、この保守系の票が真っ二つに割れるようでなければ本質的脅威とは見なされません。その意味から、国民の理解が不足している現状に対して、総理が積極的にメディアに登場して説明する姿勢をとっているのはこの7割の保守基盤を固めているのであって決して反対勢力を味方につけることを意図したものではないでしょう。そのような事態が想定されるのは、保守的な対案をもった一枚岩の野党が現れるときです。世論調査を見る限り、法案に対する国民の不満が高まっているのは事実でしょうが、このような構造をひっくり返すものでない限り、政権には脅威とはなり得ないのです。では、自民党以外の勢力はどのようにこの安保をめぐる問題に取り組んできているでしょうか。(つづく)
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