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2013-01-30 12:27
(連載)ミャンマーの民主化・少数民族問題と日本(1)
六辻 彰二
横浜市立大学講師
この2年ほど、日本企業によるミャンマーへの進出が目立ちます。1988年の軍事クーデタ以来、西側先進国とは疎遠であるものの、人件費が中国の5分の1、人口6000万人の市場規模、そして天然ガスやルビーなどの天然資源が豊富であるなど、ミャンマーには経済的な魅力が溢れています。東南アジア最後のフロンティアとして、ミャンマーが注目されるのは不思議ではありません。これを反映して、麻生副総理は初の外遊で1月初頭にミャンマーを訪問し、テイン・セイン大統領との会談で5000億円相当の債務放棄を改めて表明するなど、政府もアプローチを強めています。一方で、ミャンマーの政情は必ずしも安定していません。昨年暮れの12月30日、ミャンマー軍は武装組織カチン独立軍(KIA)の拠点を奪還したと発表しました。KIAはミャンマー北部に多く居住するカチン人の、ミャンマーからの分離独立を掲げるカチン独立機構(KIO)の軍事部門です。この攻撃には戦闘機も使用されており、国連も市民を巻き込む攻撃に懸念を示しています。
1948年、第二次世界大戦中の日本軍による占領を経て、英領ビルマがビルマ連邦として独立しました。しかし、独立後のビルマでは、人口で約70パーセントを占めるビルマ人中心の支配を拒絶する少数民族が相次ぎ、自治権を求める動きが広がるようになります。「少数民族に自治権を付与する」という発想は、欧米諸国でも公民権運動などを経た1960年代の末に至るまで、日の目をみることはほとんどありませんでした。必然的に、ビルマでは多数派ビルマ人主体の政府がカチン、カレン、ワ、などの少数民族を力ずくで抑え、これにそれぞれの少数民族が抵抗する構図が定着してきたのです。この構図は、1988年のクーデタ、さらに軍事政権によって国名がビルマからミャンマーに変更された後、さらに鮮明になりました。タン・シュエ議長率いる国家平和開発評議会(SPDC)は、少数民族の居住地に軍隊を進駐させ、その土地から彼らを強制的に排除し、ビルマ人を移住させる「ビルマ化」政策を推し進めました。その結果、例えば2005年に国連に提出された報告によると、同国北部のカレン人居住地にミャンマー軍が侵攻し、子どもを含む虐殺や集団レイプが横行した挙句、約70万人が強制的に移住させられたのです。
SPDCが「ビルマ化」に力を入れた背景には、主に以下の要因があったといえます。(1)軍事政権を支える35万人の兵士に、土地という財産を与える、(2)天然ガスのパイプラインを敷設するために、政府と敵対する、その土地の少数民族を立ち退かせる、(3)少数民族の居住地域にある、ルビーなどの天然資源開発を、政府が中心となって行う。ともあれ、もともとあった少数民族への弾圧は、SPDCのもとで一層激化したことは確かといえるでしょう。その一方で、クーデタによって政権を獲得したことで、SPDCは欧米諸国からの批判にさらされ続けました。欧米諸国は軍事政権によるビルマからミャンマーへの国名変更も認めず、禁輸などの経済制裁を課してきました。例えば、米国はルビーの原産地を表示することを義務付ける国内法を定めています。これは、ミャンマーの主な輸出品の一つであるルビーの流通の透明性を高めるころで、SPDCに対する包囲網を敷くものでした。
こうして20年間に渡り西側先進国とほぼ断絶していたSPDCですが、2008年に突然、民政移管を発表しました。実際、2010年11月には議会選挙が行われ、さらに2011年3月にはテイン・セイン大統領が就任し、入れ替わるようにしてタン・シュエは国軍司令官を退き、SPDCは正式に解散しました。さらに2012年4月の下院の補選では、自宅軟禁を解除されたアウン・サン・スー・チー率いる国民民主連盟(NLD)が45議席中43議席を獲得し、スー・チー自身も当選しました。軍政に反対し続け、ノーベル平和賞を受賞するなど、国際的に知名度の高いスー・チーが公式の政治活動を解禁されたことは、ミャンマーの民主化を印象づけるものでした。これを受けて米国は経済制裁を緩和させる方向に舵を切り、さらに昨年11月、オバマ大統領が現職の米国大統領として初めてミャンマーを訪問し、テイン・セイン、スー・チーと相次いで会談しています。(つづく)
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