一方で、第2条でイスラームが法の精神の根本をなすことが強調されているほか、第11条では国家が公共の秩序とともに倫理、公衆道徳、愛国心、アラブ文化なども保護することが明記されています。さらに、第31条では、他者の尊厳を傷つけることが禁じられています。これらの条項は、特定の価値観を国家が強制する契機になり得るとして、さらに(女性の権利などを制約しがちな)イスラームの教義に批判的な言論を取り締まろうとするものとして、リベラル派らから警戒・批判されています。とはいえ、イスラーム主義者からすれば、これらは譲れない一線です。欧米諸国では、「表現の自由」の名の下に、預言者ムハンマドやイスラームそのものが揶揄される、あるいは侮辱されることが頻発しています。今年の9月にも、アメリカでイスラームを批判する内容の映画 ‘Innocence of Muslims’ が公開されたことが、その後イスラーム圏で大規模な反欧米デモを引き起こしました。つまり、表現の自由が無制限に許容されると、他者(この場合はイスラーム)の尊厳を傷つけることになりがちで、それはエジプト社会の混乱をもたらすため、認められないというのが、イスラーム主義者の主張なのです。その意味で、今回の憲法草案が、多分にイスラーム主義の影響を受けていることは確かです。