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2012-02-14 15:27

(連載)4島での共同経済活動に反対する(1)

丹波  實  元政務担当外務審議官、元駐ロシア連邦大使
 北方領土における日露の共同経済活動の最近の動きを深く憂慮する。近くで見れば、2010年11月の横浜で行われたAPEC首脳会議の時の日露首脳会談の際、あるロシア人の語ったところによれば、メドベージェフ大統領がこの問題を提起した。この問題について日本側はミニマムの事しか明らかにしていないが、12月にメドベージェフは記者会見でこの問題を日本側に提起したことを明らかにしており、昨年の『文芸春秋』の4月号で、前原外相が、横浜の首脳会談の時外相として同席したが、この問題が提起されたことを明らかにしている。

 また1月の某雑誌で、前原前外相は、昨年2月の訪ロの際に外務省事務当局が用意した発言資料には「ロシア側からこの問題を提起した場合」の発言ぶりが用意されていたが、外相は「日本側からこの問題を提起したい」と事務当局に言い、ラブロフ外相との会談でこの問題の検討を提起したと述べている。ラブロフ外相は、この問題については横浜での記者会見で「すべてはロシアの法律の下で行われる」と明言している。前原氏を含め一部の日本人の中には「日本の4島に対する立場が害されないのであれば、領土問題の突破口になるのではないか」との考え方をしているようであるが、「ロシアの法律の下での活動」が「日本の立場を害しない」ような中間的なものがあるとはとても思えない。

 このことは、次の例を見れば明らかである。すなわち、4島周辺の海上であれ、陸上であれ、共同経済活動なるものが、日露両国の人間で共同で行われるとした場合、若し仕事中に、または仕事が終わってからの日露両国人の参加する夕食会で、日本人Aが、ロシア人Bと喧嘩になり、これが殺傷事件になった場合,一体誰が処理するのか?又は、4島の上での経済活動の中で、投資の問題を巡って民事的紛争になった場合、どこの国の民法で解決するのか。前者の例で行けば、Aはロシアの警察によって逮捕され、ロシアの裁判官がロシアの刑法によって裁判し、ロシアの法律のもとで刑に服する。ラブロフ外相は、今年1月末に訪日し、28日には外相会談が行われたが、その直前の1月18日の記者会見でも、26日の記者会見でも「ロシアの法律の中において進展の可能性がある]と繰り返し明言している。こんな立場を前にして「日本の立場を害さない」中間的なものがあるはずはない。

 ロシアの狙いは初めから「ロシアの4島に対する領土主権、管轄権を日本側に認めさせる」ために言ってきたことである。ラブロフ外相は、前記の18日の会見では、具体的な例として、水産加工、港湾などの漁業インフラ整備、地熱発電を例に挙げたが、上記で述べた問題点はあらゆるところに残っている。1月28日のロシア外務省のウエブサイトによると、ラブロフ外相はこの会談の中述べたこととして「私は、漁業、魚加工、農業、観光の諸分野における計画が話に上りうると考えている。ロシアの法体系は、そのために必要なあらゆる可能性を生みだしている。その際我々は、そうしたあらゆる協力が日本の法的立場を損なわないよう日本側の立場を考慮する用意が完全に整っている。」となっているが、このことで、ロシアの今まで言いつてきた「ロシアの法律が全部適用になる」ということに変化があったと考える訳には行かない。彼らロシア側は、今でもこれまで言ってきたことと同じことを言っている。(つづく)
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