国際政経懇話会
第310回国際政経懇話会メモ
「2019年の内外経済情勢」
平成31年2月18日(水)
グローバル・フォーラム
公益財団法人 日本国際フォーラム
東アジア共同体評議会
第310回国際政経懇話会は、吉崎達彦双日総合研究所チーフエコノミストを講師に迎え、「2019年の内外経済情勢」と題して、下記1.~5.の要領で開催されたところ、その冒頭講話の概要は下記6.のとおりであった。その後、出席者との間で活発な質疑応答が行われたが、オフレコを前提としている当懇話会の性格上、これ以上の詳細は割愛する。
1.日 時:平成31年2月18日(水)午前11時45分より午後1時45分まで
2.場 所:日本国際フォーラム会議室(チュリス赤坂8階803号室)
3.テーマ:「2019年の内外経済情勢」
4.講 師:吉崎達彦 双日総合研究所チーフエコノミスト
5.出席者:18名
6.講話概要
(1)最新版「World Economic Outlook」から読む世界経済の行方
本年1月21日に公表された、IMFの「世界経済見通し」(World Economic Outlook:WEO)では、タイトルが”A Weakening Global Expansion”(成長の力強さを失う世界経済)となっており、IMFが「世界経済が減速していると認めた」ことが特筆すべき点である。また、今回の WEO では、中国経済の成長率が 2年連続で 6.2%となっていること、日本経済が「消費税対策導入」により上方修正された点も注目すべきであろう。他方、米国経済については、 2.9%(18年)→2.5%(19年)→1.8%(20年)という減速が気になるところである。
(2)米中通商摩擦の行方
現在の不安定な中国経済にとって、対米通商摩擦の解決は最重要課題である。とはいえ、北朝鮮問題など中国にとって安全保障の問題も山積しており、対米譲歩を急ぐわけにはいかない状況が続いているといえる。個人的には、米中通商協議は3月の締め切りを超えて長期化するのではないか。貿易不均衡の問題は中国側が輸入拡大することで対応できるが、知財の扱いなどの構造問題は難しい。最もシビアなのはファーウェイなどの民間企業を含む、ハイテク覇権の問題であろう。産業分野に関しては、米中両国とも譲歩できない分野であり、あとあとまで引きずることになるであろう。
(3)日本の景気拡大の行方
日本の景気拡大が「いざなみ景気」(2002年2月から2008年2月まで)を超えて戦後最長になったものの、厚生労働省の不正統計問題がクローズアップされていることもあり、この記録の信憑性も問われているようだ。小泉政権時代(当時)の「いざなみ景気」は、名目経済成長率がほとんど増えず実質経済成長率が伸びるデフレ・輸出主導型の好景気だった。雇用も増えず、回復の実感に乏しいため、質の良い好景気とはいえなかった。今回については、実質1%、名目1.7%程度の成長が安倍政権発足以来続いており、その点において、「いざなみ景気」より質が良いといえるのではないか。ただし、今後、この景気拡大がいつまで続くかについては予測が難しい。景気を左右する金利の動きが失われているほか、在庫のサイクルも不透明など、景気の山谷が分かりづらくなっているからだ。
(4)消費増税と今後の課題
今年は、参議院議員通常選挙やアフリカ開発会議、G20、ラグビー・ワールドカップなど、日本全国で注目のイベントが控えている。とりわけ、注目すべきは10月に控えた消費税増税(8%→10%)であろう。最近、「増税の先送りはあるのか」と問われることが多いが、私は「先送りはない」と考えている。今国会で審議中の来年度予算案は消費税増税を見込んだ内容で審議が進められており、中止されることはない。むしろ懸念すべきは、消費税増税対策に伴う景気刺激策が行き過ぎているのではないか。軽減税率や自動車・住宅税制措置、プレミアム付き商品券に加えて、キャッシュレス決済利用者への還元策などが盛り込まれているが、いずれも制度作りが深まっているとはいえず、もっと国全体で議論すべきであろう。
(5)日本の就業者数増加が意味すること
就業者数が2010年代前半から上昇し続け2018年末には6,668万人に達し史上最高数を記録・更新した。人口が毎年40万人ずつ減少しているのにもかかわらず、就業者数が増え続けるのは特筆すべきことだ。ただし、実は就業者が増えている一方で、消費は伸びていない。就業者数が増加した要因は何かといえば、これは主に、女性、外国人に加えて、65歳以上の高齢者が社会に進出したことによるものである。こうした人々については、現状の労働環境では収入を消費にそのまま回すことが難しく、今後いかにして、賃上げを実現し、消費につなげる仕組みができるかが、重要になってくる。
(文責、在事務局)