外交円卓懇談会
第138回外交円卓懇談会
「パワー・トランジション時代のEU」(メモ)
グローバル・フォーラム
公益財団法人日本国際フォーラム
東アジア共同体評議会
事務局
グローバル・フォーラム等3団体の共催する第138回外交円卓懇談会は、ユアン・ミルチャ・パシュク(Ioan Mircea PASCU)欧州議会副議長を講師に迎え、「パワー・トランジション時代のEU」と題して、下記1.~5.の要領で開催されたところ、その冒頭講話の概要は下記6.のとおりであった。
1.日 時:2017年11月6日(月)15:00~16:30
2.場 所:日本国際フォーラム会議室
3.テーマ:「パワー・トランジション時代のEU」
4.報告者:ユアン・ミルチャ・パシュク(Ioan Mircea PASCU)欧州議会副議長
5.出席者:22名
6.講師講話概要
ユアン・ミルチャ・パシュク欧州議会副議長の講話の概要は次の通り。その後、出席者との間で活発な質疑応答が行われたが、議論についてはオフレコを前提としている当懇談会の性格上、これ以上の詳細は割愛する。
(1)国際社会におけるパワー・トランジション
国際システムの基礎はパワーである。そのパワーは一箇所に留まるものでなく移行し続けるものであり、戦争や経済危機の際には特にそのペースが加速する。国際政治は、国際システムを形成するためのパワーを得ようとして国家間で争われているゲームであり、そのパワーを得ることに長けた国家が勝者となっているわけである。
第二次大戦後、英国のチャーチルは、米ソ二カ国がスーパー・パワーを持ち、今後の国際システムの運営が米ソによってなされることになると認識した。そのため、国際システムの運営に参加していくには、欧州として連帯することが必要であると考え、「ヨーロッパ合衆国」を提唱したのであった。ではなぜ現在の英国は、かつてチャーチルが提唱したところの連帯した欧州であるEUを離脱するのだろうか。恐らく、かつてのスーパー・パワーを持った二カ国による二極化が解消されたため、連帯した欧州に留まるよりも、離脱した方がよりパワーを得られるとの判断したものとみられる。
この判断がどうなるのはまだわからないが、いずれにしても現在の国際社会は、テロリズムをはじめとする危機の連鎖によって不確実生が高く、今後の予測を立てることが困難であることは確かである。このようななかで、EUが今後、国際社会のシステムに影響をもつようには、どうあるべきか。EUは、現在の国際システムにおいても特別なアクターであることは間違いない。それは、共通の通商政策をとり域内の関税を撤廃し、また加盟各国の開発政策、外交政策および安全保障政策についても部分的にEUとしての共通政策が取られはじめるなど、共通した取り組みをとることによって影響力を高めているからである。ただ今後は、今以上に単一のアクターとなることが必要だろう。そしてそれには、共通の軍隊と通貨が必要であり、過去に掲げられた欧州防衛共同体の構築にも進んでいくことが必要となろう。
(2)EUの課題と今後の展望
しかし、EUは多くの課題を抱えている。根源的な課題としては、EUとしての統一した利益を形成できていないということである。EUは、全体として民主主義、自由、人権といった共通の価値を有しているものの、加盟国によって異なる利益と脅威が存在している。例えば脅威ということでは、ロシアに隣接する国家とベルギーやオランダのような国家はでは全くことなる安全保障環境にあり、EUとして統一した脅威認識のもとで対応することを困難にしている。
EUの制度にも課題が多い。特に、EUの最高意思決定機関である理事会は、全会一致の原則としているため、EUとしての迅速な対応が出来ないという課題である。現状では、例えば金融市場で問題が発生しても、意思決定に時間がかかり迅速な対応をとることができない可能性がある。ただこれについては、条件付きの多数決を認めようとするなどの改善の努力もなされているところではある。
EUには、ほかにも、状態のよくない人口動態、原子力やサイバーなどの分野で相対的に力の優位性を失っていることなど、多くの課題がある。そして、各国家のパワーよりもEUとして総体となったほうが本当にパワーをもつことができるのか、Brexitでつきつけられたこの問いにもいまだ完全には答えられていない。
他方このような問題がある一方で、Brexit以降、EUの結束力が高まっているという側面もある。例えば、これまではEUによる安全保障の取り組みをすすめようとしても、NATOによる対応に固執する英国が常に反対し実行されてこなかった。しかしBrexit以降、英国が様々な安全保障上の取り組みにたいして柔軟になりはじめている。恐らく英国は、EUを脱退しても、安全保障における欧州の緊密な協力を維持したいのであろう。
以上のように、課題を抱えつつも再び結束力もみせはじめたEUは、今後、組織としての強靭性をも高め、パワー・トランジション時代に対応していかねばらない。
(文責在事務局)