外交円卓懇談会

第135回外交円卓懇談会
「朝鮮半島情勢の現状をどうみるか」(メモ)

2017年6月21日
グローバル・フォーラム
公益財団法人日本国際フォーラム
東アジア共同体評議会
事務局

 グローバル・フォーラム等3団体の共催する第135回外交円卓懇談会は、高永喆(KOH Young Choul)元韓国国防省北朝鮮分析官・拓殖大学客員研究員を講師に迎え、「朝鮮半島情勢の現状をどうみるか」と題して、下記1.~5.の要領で開催されたところ、その冒頭講話の概要は下記6.のとおりであった。

1.日 時:2017年6月21日(木)15:00~16:30
2.場 所:日本国際フォーラム会議室
3.テーマ:「朝鮮半島情勢の現状をどうみるか」
4.報告者:高永喆元韓国国防省北朝鮮分析官・拓殖大学客員研究員
5.出席者:27名
6.講師講話概要
 高永喆(KOH Young Choul)元韓国国防省北朝鮮分析官・拓殖大学客員研究員の講話の概要は次の通り。その後、出席者との間で活発な質疑応答が行われたが、議論についてはオフレコを前提としている当懇談会の性格上、これ以上の詳細は割愛する。

(1)北朝鮮の現状
 北朝鮮の最高指導者である金正恩は、未だ中国もロシアも訪問せず、強気の姿勢を内外に示している。金正恩は30代と若く、国際情勢を正確に把握しているようには見えない。恐らく現在の北朝鮮は、金正恩政権を支えるブレーン集団が国家運営(コンサルティング)を誘導していると判断した方がよいだろう。識者の間では、1990年代頃から、北朝鮮が崩壊するのではないかとの予測がされてきたが、未だに国家が維持されている。一つの理由としては、北朝鮮には市民から軍人にいたるまで内部告発の体制ができあがっており、政権に批判的な発言をすれば、誰でもすぐに逮捕されてしまうからである。もう一つの理由は、38度線(休戦ライン)が中国、ロシアの大陸国家と、米国、日本などの海洋国家の緩衝地帯となっており、それらの国家にとっても、その現状を変更することが容易ではないためである。
 なお北朝鮮は、歴史的に中国の随と唐の侵攻を打ち破った高句麗の末裔との意識の他、70年代に米国および中国がそれぞれベトナムとの戦争で失敗している事例から、仮に大国からの干渉や侵攻があったとしてもそれを打ち破れるとの自信をもっているようである。

(2)米朝の軍事衝突はあるのか
 ここ数ヶ月の間、米朝間の軍事的緊張が高まっているが、今後米軍による攻撃はあるのだろうか。これまでの米国の北朝鮮政策は、北朝鮮による所謂「瀬戸際外交」によって、対話→対話決裂→緊張→北朝鮮からの挑発→対話再会、の循環をくり返し、結局問題の解決を図ることができなかった。
しかし、核およびICBMの開発を進める北朝鮮に対して、最近米国の高官よりこれまでの「戦略的忍耐」の時期が終わった旨の発言がされるようになっていることから、今後トランプ大統領が軍事行動に踏み切る可能性はある。またその場合、対日石油輸出禁止等によって日本を真珠湾攻撃に踏み切らせたように、米国は、北朝鮮への石油の禁輸などの圧力を強め、北朝鮮からの更なる挑発行為に踏み切らせようとする可能性があるだろう。
 以上のような軍事衝突の可能性とともに、ソフトランディングによる問題解決に向かう可能性もある。それは、中国の仲介で、劇的な米朝譲歩が実現し、米朝間の対話を再開することなどができた場合である。米国にとっては、北朝鮮への軍事行動には韓国への多大な被害が予想されることから、軍事行動を積極的に進めようとしているわけではない。また中国にとっても、北朝鮮の核開発によって、日本、韓国が核武装することを懸念しており、これ以上北朝鮮の暴発を望むものではないだろう。
 ただ中国にとっては、北朝鮮の核保有はある程度容認できるものなのかもしれない。中国には、インド、ロシア、韓国、日本、米国という競争相手に囲まれているという認識があり、その一角であるインドを牽制するために、パキスタンの核保有を容認したのではないかとの見解がある。その見解からすると、日本、韓国、米国を牽制するために、北朝鮮の核保有を容認しているのではないかと推測できる。 以上のように、北朝鮮を巡る各国の思惑、状況は様々であり、今後もこの問題がどのように進展していくのかは予断を許さない。

(3)文在寅政権について
 最後に、さる5月に誕生した韓国の文在寅政権について述べたい。文在寅が大統領選挙で勝利した大きな要因は、自殺した盧武鉉元大統領の弔い合戦、セウォル号沈没への責任の追及、朴槿恵大統領の不正の追及、の3つを選挙キャンペーンに取り入れた事であった。そして、北朝鮮のサイバー部隊が、韓国人の若者になりすまして、度々SNSなどを使って、上記の点について朴槿恵大統領側へのネガティブな批判を広めたことも影響していたようである。
 このような状況のもとで誕生した文在寅大統領であるが、必ずしも日本で報道されているように、左翼主義の大統領ではない。むしろ民族主義的志向をもっているといったほうが適切である。というのも、選挙期間中から積極的に保守派の人物を登用し、今後国防予算の増大にも取り組むことが予測さているからである。

(文責在事務局)

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