次に青山学院大学の青井准教授より、人道的介入問題に関し、カナダの提案で国連に設立された「介入と主権に関する国際委員会(ICISS)」が「保護する責任(Responsibility to Protect)」の概念を提起し、それが2005年の国連総会で採択された経緯の説明があった。主権国家がジェノサイド、戦争犯罪、民族浄化、人道に関する罪から市民を「保護する責任」を果さない場合に、国連安保理が自らの責任として保護のために行動する用意があるとする概念であると解説された。これは「責任」概念の新たな導入であり、国連の威信を回復するという意味を持つが、果して主権と人権の対立関係を解消できるか、国連の威信をどこまで回復できるか、問題は残ると指摘された。カナダは貧困よりも抑圧からの自由に留意し、ICISS報告は主権を「支配」ではなく「責任」と捉えて「保護する責任」の概念を提示し、介入正当化の理論的試みを行ったものであり、人道・人権問題への関心が主権規範に影響を与え、国連の介入が正当化されつつあるとの分析を提示した。今後は介入の制度化や国連の行動がない場合の一方的介入の許容などの問題について、創造的、建設的な議論が必要になると結んだ。