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2022-06-24 21:02
(連載2)ウクライナ侵攻と世界的インフレについて
真田 幸光
大学教員
しかし、筆者が一つ懸念していることは、「ロシア・ウクライナ情勢が収束することによって、本当に世界的なインフレも収束するのであろうか」ということである。即ち、「今度は中国本土による、安くて比較的品質の高い大量生産のものの世界に対する供給が落ち込み始め、世界は新たなインフレ問題に直面しはしないか」という懸念である。筆者の見るところ、既に国力をつけた中国本土は、今後、当面は、「いざとなったらば鎖国できる国作り」を目指し、国内経済重視の経済運営姿勢を示しながら、更に国力を充実させる可能性を示唆している。一方で、世界に対しては、世界経済の牽引車である中国本土との交易拡大がないと存続が厳しいということを肌感覚で認識させる方向に動いており、当面、或いは一旦、中国本土から世界に向けた供給を減らす可能性もある。これにより、新たな需給バランスの乱れが生まれ、世界的なインフレ問題が発生しないかという懸念を筆者は持っている。
更に、昨年、中国本土の人口は0.03%(48万人)の増加に留まった。そして、今年は人口減少元年になると予想されている。この結果、若い優秀な中国人の減少が全世界的な人件費の上昇を招く可能性もある。この結果、デジタル化された工場が主流となる国に中国本土がなれば、世界の物価は上昇圧力を再び受ける可能性もある。過去に日本企業が輸出から内需にビジネスの重心を移したように、中国本土企業も徐々に豊かになった内需市場に目を向けている。そうした中で、いざとなったら鎖国できる国作りが本格化すれば、世界経済の構造は変わらざるを得ない。今年10月の、共産党大会で習近平国家主席は終身政権の座に留まることを宣言するとみられ、米英などとの緊張が高まる危険性がある中、鎖国できる国作りが推進される可能性は高まっていると筆者は見る。更にまた、ロシア・ウクライナ情勢と新型コロナウイルスによる打撃を受けたことから、世界の主要国は原材料や生産物を十分に蓄えようとしている。実需以上に貯えを増やすということは、需給バランスが崩れ価格上昇につながる。自由貿易が栄えた時期には迅速な原料調達が出来、コストを最小化できる「ジャストインタイム」方式が可能であったが、今や非常時に備え、何でも備蓄しておく「ジャストインケース」方式へと急速に転換しているとも言われている。結果として、生産コストは上がることになる。
ロシアのウクライナ侵攻は21世紀に入って以降ずっと維持された世界的な低物価時代が終わったというシグナルであるとの声まで出始めた。再びインフレの時代を迎え、中国本土はそうした構造的変化を起こす次の原因ともなりかねない。日本政府は、場当たり的なインフレ対策だけではなく、上述したような中期的な変化の可能性なども意識しながら、物価への対応政策を広い視野から、そして長期的な視点から立てていく必要が出てきていると筆者は見ている。
尚、米欧諸国などを中心に、世界はこの40年余りで最も深刻な物価状況となっており、世界の91国の消費者物価は5%以上上がっている。ロシアのウクライナ侵攻、新型コロナウイルス感染拡大以降のサプライチェーンの悪化、気象悪化がもたらした穀物生産量の減少などが重なり、記録的なインフレが世界全体に広がっている。ブルームバーグは、消費者物価を公式集計した120カ国のうち、91カ国の消費者物価が前年対比5%以上上昇していると報告している。昨年まで物価上昇率が5%を超える国は36カ所に過ぎず、またその大部分の国は、世界経済に占める割合の小さい新興国や低開発国であった。しかし、今年入っては米国・フランス・ドイツなど世界経済の中心国家にインフレが拡散しており、事態は深刻であると報告されている。付記しておきたい。(おわり)
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投稿履歴
(連載1)ウクライナ侵攻と世界的インフレについて
真田 幸光 2022-06-23 21:27
(連載2)ウクライナ侵攻と世界的インフレについて
真田 幸光 2022-06-24 21:02
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