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2022-06-08 20:54
(連載2)シュレーダー元首相はなぜ特権を剥奪されたのか
宇田川 敬介
作家・ジャーナリスト
これは、彼の住んでいた地域にはいずれも「東ドイツからの脱出組」が多く旧東ドイツ労働者が多くいたことからという見方もある。日本で言うところの「人権派」や「在日外国人保護活動弁護士」に、なんとなく似ていると思えばよいのかもしれない。1998年、「新しい中道」をキャッチフレーズに、SPDの連邦首相候補として連邦議会選挙に再出馬して当選。この選挙で社会民主党が議会第一党を獲得、連立で16年ぶりの政権交代を実現し、ドイツ連邦共和国第7代首相に就任。2001年9月11日のアメリカ同時多発テロ事件を受け、「アメリカ合衆国との無制限の連帯」を表明。ドイツ連邦軍の「不朽の自由作戦」参加を決定する一面を見せながらも、ロシアからバルト海を通ってドイツに天然ガスを送るという、物議があったノルド・ストリーム建設についてロシアとパイプライン計画に合意した。パイプラインによりドイツのエネルギー供給は、ロシア国営企業への依存を強めることになる。
そして首相退任後、2006年3月、ロシア国営天然ガス会社ガスプロムの子会社「ノルド・ストリームAG」の役員に就任。バルト海底を経由してロシア・ドイツ間をつないだ天然ガスのパイプラインであるノルド・ストリームやノルド・ストリーム2の取締役を2017年時点でも務めている。ロシアエネルギー業界とのつながりで長期的に利益を得ていることには、批判の声がある。他方、2007年5月、中華人民共和国外交部顧問に任命され伝統的中国医学を世界に宣伝する役割を負う。2014年4月28日にウクライナのクリミア危機でロシアがクリミア半島併合した中、ロシアのかつての首都であったサンクトペテルブルクの宮殿で70歳の誕生日をウラジーミル・プーチン露大統領と抱擁して祝った。シュレーダーは侵攻発生後もロシアとの関わりを断つべきではないとSNSへの投稿を行っており、またロシア国営企業の役員も辞さなかった。
日本にも似たような政治家がいると思った方もいるかもしれないが、潜在的な自国の敵に対して経済関係を優先し国家の尊厳を損なう利敵行為を、首相退任後もし続けて国民の多くから非難を受けるような政治家はどこの国にでも居る。シュレーダー氏は焦土と化した敗戦国で生まれ、リベラルな世相の中で育った政治家という意味で、日本人にも理解しやすいキャラクターかもしれない。
一応両論併記という意味でちょっとだけ擁護をすると、常に対話の窓口を持っておくことは外交として重要な事であり、なおかつ、国家の経済的な発展を見据えて考えれば軍事と資源、双方の安全保障の観点から、ロシアのエネルギー産業との太いパイプを持った元首相の立場は理解できないでもない。しかし、独露2国間だけで考えればそのような形になるのかもしれないが、これがEUやNATOというプレイヤーの多い集団の関係ということになれば、構成国の信用を失う行為は大きく国益を損なうことになるのであろう。もちろん、これ以上の擁護をするつもりはない。まあ、少なくとも国家としての尊厳を曲げ、国際法に違反する侵略を肯定するようなことをしては、国家としての品格が問われることになろう。当然にドイツという国家も、その観点からシュレーダー元首相の特権を剥奪したのであるが、ある意味で当然のことと思う。(おわり)
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投稿履歴
(連載1)シュレーダー元首相はなぜ特権を剥奪されたのか
宇田川 敬介 2022-06-07 21:39
(連載2)シュレーダー元首相はなぜ特権を剥奪されたのか
宇田川 敬介 2022-06-08 20:54
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