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2022-01-22 20:51
(連載2)続・現代に緊急事態条項は必要か
倉西 雅子
政治学者
幸いにして、第二次世界大戦後の日本国においては、暴力で国家体制を転換させるような大規模な反乱は起きていませんが(もっとも、オウム真理教による地下鉄サリン事件は、小規模ながらも国権奪取を目的とした反乱としても理解される…)、破防法が制定され、今日にありましても、政府が、暴力革命を是としてきた共産主義勢力や過激派に対する警戒を緩めていないのも、この可能性が否定できないからです(この観点からすれば、今日の日本国政府による中国への接近は広い視野で捉えれば自己矛盾ともいえなくはない…)。民主的選挙という平和的な手段がありながら、暴力を以って国権を奪うことは、政府が力を以ってしても防がなければならない国家、並びに、国民に対する大罪なのです。つまり、このケースは、民主的国家の正当防衛権として理解されましょう。
その一方で、第1のケースとは逆のパターンもあります。それは、民主的体制を維持すべき政府が、自ら同体制を破壊しようとしたりする場合です。民主的体制の国では、政治的自由が認められていますので、当然に、国民は政府を自由に批判できますし、デモ行進もできれば、抗議集会を開くこともできます。そして、仮に、政府や議会が民主主義体制を否定する、あるいは、全体主義体制に移行を含意するような政策を実施するような事態が発生した場合、それは、国民にとりましては自由、並びに、民主主義の危機となります。
その場合は、当然に反対の声や動きが全国に広がることとなりましょう(なお、国民の政府に対する不満に乗じて軍隊が体制の転換を図ろうとする場合、これはクーデタとなり、やはり、民主主義体制は危機を迎える…)。抗議活動も組織化されるとなりますと、危機感を覚えた政府は、緊急事態宣言、あるいは、非常事態宣言を発して国民の私権を制限し、同運動を暴力で弾圧、あるいは、鎮圧しないとも限らないのです。
第2のケースでは、’政府の方が悪い’、つまり、政府自身が国家体制の破壊者ということになりましょう。憲法改正時における緊急事態条項の導入問題を論じるに際しては、国民が民主的国家体制を護ろうとして政府に対して抗議活動を行うケースがあり得ることを、十分に考慮すべきであるように思えます。そして、この問題は、今日の感染症対策を根拠とした緊急事態宣言の問題とも繋がってくるように思えるのです。(おわり)
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倉西 雅子 2022-01-21 20:10
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(連載2)続・現代に緊急事態条項は必要か
倉西 雅子 2022-01-22 20:51
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