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2021-05-12 10:47
(連載2)日米共同声明を読む
緒方 林太郎
元衆議院議員
次いで、香港や新疆ウイグル自治区の人権関連です。「日米両国は、香港及び新疆ウイグル自治区における人権状況への深刻な懸念を共有する。」ここにある「深刻な懸念」がどの程度の表現かという事ですが、例えば、「東シナ海におけるあらゆる一方的な現状変更の試み」、「南シナ海における中国の不法な海洋権益に関する主張及び活動」には「反対」しています。そして、「ミャンマー国軍及び警察による市民への暴力」については「断固として非難」です。これらの事に比べると、「深刻な懸念」というのは重大さを下げた表現です。中国としては面白くは無いでしょうが、「想定の範囲内」だろうとも思います。
共同声明から少し離れますが、中国の少数民族対策が近年極めて雑だという印象を持っています。寛容さが下がってきています。中国共産党指導層の中に、かつてであれば必ず一定の地位を占めていた少数民族出身者が少なくなっているのも影響しているかもしれません。今の強権振りは取りも直さず「自信の無さ」と表裏一体です。私は20年くらい前にチベットにも、新疆ウイグル自治区にも個人旅行をした事があるので、その感覚がよく分かります。ただ、あれでは「(中国という)国民国家」には向かわないだろうと思います。
ちょっと政治系の話を離れて、私が「?」と思った所があります。「日米両国はまた、パンデミックを終わらせるため、グローバルな新型コロナウイルス・ワクチンの供給及び製造のニーズに関して協力する。」この何の意味もない一文。恐らくは日本がワクチン供給について、アメリカ側に踏み込んだコミットメントを求めた事に対して、アメリカ政府からいい返事が得られなかった事の残りだと思います。かなり押し込んだけどダメだったので、訪米中に菅総理がファイザー社長と電話会談したと、私は見ます。よく考えてみてください。電話会談で良いのなら、菅総理がワシントンに居る必要はありません。必要性があったのであれば、訪米と関係なく、一日でも二日でも早く電話会談して纏めるべきものです。それが訪米中となったのは、政府間交渉で色よい返事得られなかったので急遽入れた事を窺わせるわけです。あと、オリンピックについても「?」でした。「バイデン大統領は、今夏、安全・安心なオリンピック・パラリンピック競技大会を開催するための菅総理の努力を支持する。両首脳は、東京大会に向けて練習に励み、オリンピック精神を最も良く受け継ぐ形で競技に参加する日米両国の選手達を誇りに思う旨表明した。」まず、バイデン大統領が支持したのは、東京オリパラの「開催」ではありません。開催のための「菅総理の努力」です。G7でもこの表現でしたが、その壁を越える事は出来なかったという事です。そして、次の文ですが若干の唐突感がありますね。アメリカ代表団の参加確約を日本側から強く求めたけども、そこまでのコミットが得られなかった事の残りだと思います。
その他、「北朝鮮のミサイル発射に対するメッセージが弱いな」とか、「日米貿易問題について言及がない。トランプ大統領時の約束は引き継がないのだろう。日米貿易協定(での大盤振る舞い)は、安倍総理によるトランプ大統領へのお土産だった。」とか思う事は多々ありますが、また、気付いたら色々と書いていきたいと思います。全体としては、アメリカにかなりに押し込まれたけれども、日本側は上手くその圧力をかわして穏当な所に収めたと思います。一定の評価をすべきものでしょう。そして、中国側は表向き強い言葉を使っていますが、これくらいであれば決定的に関係を悪化させる程の事はしないでしょう。(おわり)
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