しかも、日本は過去にも航行の自由作戦の対象と見られて来ました。記憶が定かではないのですが、たしか民主党政権時代から能登半島→舳倉島→佐渡あたりの直線基線(海上保安庁ウェブサイト「(直線基線一覧)本州北西岸北部」参照)の引き方が問題だとアメリカから指摘されていました。アメリカは「能登半島から富山・新潟の本土に基線を戻すべし」と言っており、舳倉島に直線基線を引くなという事も含まれていたような気がします(違っているかもしれません)。ただ、2013年頃にこの海域を問題視する記述が航行の自由作戦のサイトから消えました。多分、安倍政権がアメリカ側とかなりの交渉をしたんだろうと思います。全然目立たないネタですが、私は「結構な得点だよな」と思っていました。
そして、今回、アメリカは対馬海峡付近で作戦をやっているようです。あくまでも想像ですが、この図における五島列島から無人島白瀬を経由して壱岐に直線基線を伸ばし、そのまま我が福岡県の世界遺産沖ノ島、山口県の見島と直線基線が伸びていく事の全体(又はその一部)を問題にしているのではないかと思います(海上保安庁ウェブサイト「(直線基線一覧)九州:都井岬~鳥屋鼻」参照)。なので、本当に日本が採用する直線基線が適当なのか、内水になっている部分が本当に内水扱いで良いのかを問うているのでしょう。今回、具体的には日本は領海と見なしているけれども、アメリカが妥当とする基線から測れば公海になる狭い海域で軍事行動を行っているのだと思います(領海内での他国の軍事行動は国連海洋法条約で禁じられている)。更には五島列島から上甑島、鹿児島県の諸群島に引いている直線基線もケチを付けているだろうと思います。もしかしたら、対馬そのものの直線基線(海上保安庁ウェブサイト「(直線基線一覧)対馬」参照)もケチ付けるんじゃないかなと思います。
再度、直線基線の日本の全体図(海上保安庁ウェブサイト「直線基線とは」参照)を見ていただくと、九州と北陸、東北、北海道西部での内水の膨らみ方が大きい事に気付いていただけると思います。とどのところ、それらのすべてをアメリカは問題視していると思っていただいていいでしょう。将来的にこれらの海域においても、日本の基線では領海、アメリカが妥当とする基線から測れば公海になる場所での軍事行動はあり得ると見るべきです。アメリカの言い分をすべて聞いていると、日本の主権が及ぶ範囲が狭くなります。もう少し渋いネタを披露しておくと、この基線は領海のみならず、排他的経済水域や大陸棚を測定する時にも使われます。そうすると、仮にアメリカの言い分通りにすると、東シナ海の大陸棚開発に関する日中中間線の位置に影響するはずです。10年以上前、中間線の付近で開発するガス田はどちらの国の大陸棚かという問題がかなり盛り上がりました。日中の基線から測った中間線ギリギリの所に白樺(春暁)、楠(断橋)、樫(天外天)、翌檜(龍井)といったガス田があります。そして、中間線を測る基線の一部は長崎県ではなかったかなと思います。特に翌檜(龍井)ガス田の付近の日中中間線は長崎県のはずです。「East China sea digging map」を見ていただくとよく分かります。
仮にアメリカの言い分通りにして長崎県の直線基線が凹むと、その分だけ中間線が日本側に寄ってしまいそうです(つまり境界ギリギリで日本側にあるガス田が中国側に行ってしまうおそれがある)。ただ、中国側の上海付近の直線基線も(たしか日本以上に)かなり大胆なので、こちらもアメリカは認めていません。日中双方が仮にアメリカの言い分で基線を取った時に中間線が何処になるのかは私も知りません。ただ、そういう極めて機微なネタである事は主権意識の高い方には知っておいてほしいです。「航行の自由作戦」とはこういうものを含むのです。突然やってきた話ではなく、また、常に日本に有利となる作戦ではないのです。(おわり)