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2007-07-27 11:59
連載投稿(1)中国企業の『走出去』戦略について
池尾愛子
早稲田大学教授
7月23-24日に北京で、国際シンポジウム「東アジア共同体の共通制度を創る」が、中国社会科学院日本研究所と国際アジア共同体学会によって共同開催された。東芝国際交流財団の援助を得て、中国、韓国、日本、EU(欧州連合)の研究者、公的機関関係者が参加して、情報・知識が交換されたほか、かなり率直な意見のやりとりも行われた。東アジアに共通するものは、相違するものを確認することによって浮かび上がってくる局面がある。それゆえ、国際会議の回数を重ね、参加者が経験を積むにつれて、感情的な議論が減り、実りある議論が出てくる可能性が高まることであろう。私自身はエネルギー問題を通じて東アジア共同体形成について関心をもつようになったのであるが、省エネ・エネルギー効率向上のために東アジアで協力できることがある一方で、エネルギー資源供給先の確保は東アジア以外の地域にも頼らざるをえないという共通認識も既にある。
今回のシンポジウムでは、企業のグローバル戦略に関する発表・議論を通じて、制度の相違が感じられる場面があった。張季風氏(中国社会科学院日本研究所)の発表「中国企業の『走出去』戦略」に論争を呼ぶものが含まれていたので、紹介しつつ感想を述べておきたい。張氏によれば、『走出去』は、「外に出かける」、つまり「企業を海外に行かせる」という意味で、『走出去』とは(中国政府による)企業のグローバル経営、海外投資の奨励をさす。『走出去』戦略は中国政府によって1999年に提起され、2000年以降は国家戦略として推進されてきた。さらに、「中国政府は、以前から企業のグローバル化あるいは大企業を育成するという政策を進めており、端的にいえば Fortune 500 に取り上げられるような大企業の育成を目指している」と説明された。
『走出去』には広義の意味もあるが、現在の議論の焦点にあるのは狭義のもので、主に中国企業の海外直接投資をさす。中国政府が狭義の『走出去』戦略をとる狙いは3つにまとめられた。第1は、諸外国との経済・外交関係の強化である。第2は、経済摩擦、とくに貿易摩擦を回避し、人民元の切上げ圧力を緩和することである。第3は、資源、とくに石油、金属資源の獲得と確保である。ただ、第2点の背景には、1985年のプラザ合意に対する中国流理解があるようで、日本は(政府介入をともなう)変動相場制(フロート制)をとっていたことにはふれられずに、中国は日本の失敗を繰り返さない(ように、米ドルへの釘付け制度と現在の水準をできる限り維持する)と表現されることもある。これだけに絞っても、通貨や国際金融の歴史についても共通認識の醸成が必要であるように思われる。
中国企業の『走出去』(対外投資)の現状をみると、先進国と途上国で異なっている。先進国への投資は、物流サポート、販売・マーケティング、研究開発、地域本部の設置などを目的とし、M&A(企業合併・買収)を手段として用いることが多い。途上国の場合は、生産拠点への投資が多く、新規投資(グリーンフィールド)を手段とすることが多い。2005年末時点では、主要投資先はアジア・中南米となっているが、アフリカも投資先として注目されてきた。業種としては資源開発とエネルギー開発が目立つものの、中国の家電大手企業5社もグローバル展開していて、中国が中進国のポジションにあることが注目される。(つづく)
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