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2020-04-29 19:34
最近の習近平指導部への試論八論
松本 修
国際問題評論家(元防衛省情報本部分析官)
1 はじめに
4月29日午前、中国は、3月5日から延期されていた第13期全国人民代表大会(全人代)第3回会議の開幕日を5月22日に決定したと明らかにした。また、同時に3月3日から延期されていた第13期全国政治協商会議(政協)第3回会議の開幕日を5月21日とする議案が出ていることも明らかにした。「COVID-19」によって「凍結」されていた中国の政治日程が動き出したが、これを取り巻く事象の注目点を以下、紹介したい。
2 今回の全人代常務委員会の決定内容
新華通信社の速報によると、2019年12月28日、全人代常務委員会は3月5日の全人代会議開幕、及び議事日程を決定していた。しかし、疾病の中国全土への蔓延を受けて2020年2月24日、全人代常務委員会は全人代会議を延期し、具体的な開会時期は別に定めることを決定したという。そして、4月26日から始まった今回の全人代常務委員会は、現在の疾病状況の好転、及び経済・社会生活の正常化を受け各分野の要因を総合的に考慮して延期された全人代会議を召集する条件が既に整ったと指摘したのだ。しかし、以上の報道内容から、中国が昨年末時点では「COVID-19」の脅威を何ら認識しておらず、全人代会議開催という通常の政治日程を設定していたことが明らかである。そして、延期の決定も、1月20日の習近平中国共産党総書記の重要指示から1か月以上も経った時点であったことから考えると、やはり中国の初期的対応は遅れていたと言わざるを得ない。
3 今回の日程決定をめぐる動向
4月21日の拙稿で言及したが、17日に開催された全人代常務委員会の委員長会議では全人代会議の日程に関する議案は確認できなかった。ところが、26日に始まった全人代常務委員会会議では、委員長会議が提起した第13期全人代会議第3回会議開催時期決定草案に関する議案を審議することが突如明らかになった。これは「緊急動議」の一種ではないのか。それが証拠に、28日にあらためて開かれた委員長会議は、全人代常務委員会隷下の法制工作委員会主任による全人代会議開催時期決定草案の審議状況に関する報告を聴取し、この草案を最終日の審議にかけることを決定していたのだ。この最大の理由は恐らく習近平の陝西省視察(20~23日)終了、北京帰着を待って最終的な指導・指示を仰いだためであろう。これは全人代常務委員会委員長が習近平、李克強に次ぐ中国共産党内ナンバー3の栗戦書だったことも大きい。栗委員長は、2012年に立ち上がった第1期習近平体制を「大番頭」たる党中央弁公庁主任(兼政治局委員、中央安全委員会弁公室主任)として陰日向なく支えた実力者である。2017年から始まった第2期習近平体制では政治局常務委員に昇格し、翌18年に全人代常務委員会委員長に就いていた栗戦書の存在感がまた浮き彫りにされたと言えよう。
4 その他会議の動向
4月24日の拙稿で「地位低下」に言及した党中央疫情対応工作指導小組(組長:李克強総理)の会議は27日、開かれなかった。これは、同日明らかになった党中央指導組(組長:孫春蘭副総理)の湖北省からの撤収が影響しているのであろう。1月28日に湖北省入りして3か月間もの長期にわたって現場で指導・監督活動に従事した「女傑」孫副総理の存在感は高まったと思われる。では、この27日に開かれた会議は何だったのか。2月14日以来約2か月ぶりの党中央全面深化改革委員会の会議であった。同委員会主任を務める習近平党総書記が会議を主宰した。会議の重点は経済分野の「六保」(就業、民生、市場、食糧・エネルギー、産業、末端層の重視)対策の定着化を目指し、特に医療物資の確保、資本市場の改革、生態環境の保護、科学技術体制の改革が打ち出された。そして、習総書記は「我が国が防疫活動や経済振興で成果をあげられた理由は、中国共産党の指導と社会主義制度の優位性が比類なき重要な役割を果たしたからだ」とし、「環境の発展が厳しく複雑であればあるほど改革の深化は確固不動で行わなければならない」と強調し、一連の改革に手を抜くなと党員、幹部にくぎを刺したのである。先週の陝西省視察を契機として習近平の政治的攻勢が始まったのであろうか。
5 おわりに
4月に入って香港情報等で噂されていた「両会」(全人代、政協の二大会議)の開催が現実のものとなった。習近平指導部は、一連の会議開催によって「COVID-19」への防疫活動が一段落し、政策の重点を経済振興や外交活動に移すことを内外に印象付ける狙いがあるのであろう。そして、2020年上半期の政治日程を済ませたら、下半期の重要イベントである夏季の河北省北戴河会議(非公式開催でありながら、避暑地に集結する長老政治家、専門家等が参加する重要会議)、秋季の第19期中央委員会第5回総会(5中総会)を乗り切る手筈なのであろう。他方、急減速した経済情勢や、依然として欧米諸国やロシアで疾病が猖獗を極める国際情勢、不透明な社会治安情勢と中国を取り巻く環境は決して楽観できるものではないことから、今後5月末への「両会」準備動向が注目される。
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