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2019-06-21 11:37
(連載2)いたずらに年金不安を煽った「赤字2000万円報告書」
加藤 成一
元弁護士
しかしながら、「報告書」を子細に検討すると、重大な誤りが存在する。何よりも、毎月の年金収入約21万円に対する毎月の支出約26万円は明らかに過大である。なぜなら、「報告書」10頁の毎月の支出の中には「その他の消費支出5万4028円」や「非消費支出2万8240円」の合計8万2268円が含まれており、これらの支出が収入に対して実に4割にも達しているからである。
これらの支出は年金収入に応じた「節約」が十分に可能であり、また加齢と共に減少するから、実際の必要支出額はそれぞれその半額の毎月合計4万円程度で十分であろう。そうすると約4万円が不要になる。したがって、これだけで毎月約1万円が不足するに過ぎず、年間約12万円、30年間で合計不足額は約360万円にとどまる。加えて、「報告書」10頁の「食料支出6万4444円」は加齢と共に当然減少するから、30年間の平均食料支出額は8割程度の毎月約5万円程度で十分であろう。そうすると毎月約1万円以上が不要になる。したがって、上記の不足額約1万円とこの不要額約1万円以上は相殺され、プラスマイナスゼロになる。その結果、毎月約21万円の年金収入でも、毎月の支出は約21万円であるから赤字ではなくなり、「報告書」がいう「赤字2000万円」分は不要になる。したがって、65歳以上の高齢無職夫婦の年金生活者は、以後30年間年金収入の範囲内で生活が可能なのであり、この点からも公的年金制度が破綻していないことは明らかである。
このように、「報告書」のいう「赤字2000万円」は、画一的機械的積算による極めて杜撰で高齢者の生活実態に合わない誤った金額であり、実際は、「できるだけ年金収入の範囲内で支出を抑え生活する」という、ほとんどすべての日本の高齢者世帯の生活実態や消費性向から大きくかけ離れているのみならず、実際には年金制度は破綻していないにもかかわらずあたかも破綻したかの如く、いたずらに年金不安を煽るだけの、まことに有害無益な「罪深い」数字であると言わざるを得ない。このため、自民党幹事長や政調会長が「報告書」を厳しく批判し、金融庁に対して「報告書」の撤回を求めたこと、「報告書」を公表した金融庁の企画市場局長が国会で「配慮を欠いた対応で、世間に著しい誤解や不安を与えたことを深く反省しお詫びする」と謝罪したこと、金融担当大臣が「年金が老後の生活の柱という政府の政策スタンスに反する」との理由で「報告書」の受領を断固として拒否したことは、いずれも極めて当然のことである。なぜなら、このまま放置すれば「赤字2000万円」だけが独り歩きし、ますます国民に年金不安や誤解を拡散し、その結果、年金保険料の支払いを拒否するケースが激増する事態も否定できないからである。
本件「報告書」にかかわった市場ワーキング・グループのメンバーやオブザーバーには、株式投資信託関係会社や日本証券業協会、投資信託協会、日本投資顧問業協会、日本取引所グループ、信託協会などの業界関係者や業界団体が多数含まれており、「赤字2000万円」などといたずらに年金不安を煽ることによって、ひたすらリスクを伴う金融商品の販売促進や株式投資、投資信託などに、必ずしも投資情報や投資知識が十分とはいえない大多数の一般国民を顧客として誘導する意図や動機が透けて見える。今後、政府としては、この種の金融審議会のワーキング・グループには、当該利益団体や業界団体に偏らず、労働組合を含む労働団体の代表や、老人クラブや主婦連など市民団体の代表等も加え、あくまでも高齢者の生活実態に即応した幅広い視点からの公正公平な国民的議論が求められよう。(おわり)
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投稿履歴
(連載1)いたずらに年金不安を煽った「赤字2000万円報告書」
加藤 成一 2019-06-20 20:38
(連載2)いたずらに年金不安を煽った「赤字2000万円報告書」
加藤 成一 2019-06-21 11:37
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