ホーム
新規
投稿
検索
検索
お問合わせ
2018-03-26 11:21
(連載1)スリランカは「右傾化する世界の縮図」
六辻 彰二
横浜市立大学講師
人種・宗派に基づく差別に基づく、ヘイトスピーチや「右翼テロ」は、いまや先進国だけでなく開発途上国でもみられます。これは不満や憎悪の噴出であると同時に、社会をさらに混乱させる原動力にもなります。インド洋にうかぶスリランカでは、3月6日に政府が非常事態を宣言。同国では少数派ムスリムへの嫌がらせや襲撃を、当局がともすれば放置しがちであったことが、大規模な反ムスリム暴動とそれに続く非常事態宣言に行き着きました。いわば、スリランカはヘイトスピーチを積極的に取り締まらなかったツケに直面しているといえます。スリランカは人口約2100万人。その約70パーセントを占めるシンハラ人の多くは仏教徒です。今回の非常事態宣言のきっかけとなったのは、少数派ムーア人(約9パーセント)などのムスリムに対するシンハラ人の暴動でした。
3月6日、中部州の複数の町で、ムスリムが多い地域を数百人のシンハラ人が襲撃。モスクや商店などが破壊・放火され、少なくとも一人が死亡しました。この事態に、スリランカ政府は10日間の非常事態を宣言。夜間外出が禁じられ、フェイスブックなどソーシャルメディアが遮断されました。
しかし、その後もムスリムへの襲撃は続いています。今回の暴動は、これまでに高まっていた反ムスリム感情が暴発したものでした。近年、サウジアラビアがインド洋一帯に進出するなか、スリランカもその対象となっています。2015年7月には、スリランカの経済特区にサウジがインフラ整備などで12億ドルを投資することで合意。こうした背景のもと、商業に携わることの多いムスリムは「経済的なチャンスに恵まれる」と嫉妬の対象となり、SNSなどで「富裕な湾岸諸国に出稼ぎに行ったムスリムが帰国後に豪華な家を建てた」といった噂が広がるようになりました(スリランカ・ムスリム評議会の代表はこうした噂が「神話」に過ぎないと否定している)。さらに、厳格な政教一致を求めるワッハーブ派を国教とするサウジアラビアは、神学生の派遣や神学者の招聘を通じて、海外のムスリムに影響力を広げてきました。その結果、以前は髪をスカーフで隠すだけのことが多かったスリランカのムスリム女性の間にも、顔を全て覆うアラビア半島風のヒジャブが普及。さらに、スリランカから少なくとも32人が「イスラーム国」(IS)の外国人戦闘員としてシリアに渡航する事態となりました。
この国で少数派のムスリムは、8世紀にこの地にイスラームを伝えたアラブ人商人たちの子孫といわれます。宗教や民族が混在することは、近代以前の多くの地域ではむしろ当たり前で、この地のムスリムも常に迫害されてきたわけではありません。しかし、サウジアラビアの進出と「純粋なイスラームの普及」にともない、「スリランカ社会の中心」を自認するシンハラ人の警戒感と嫉妬、憎悪は強まったのです。その結果、スリランカではムスリムへの嫌がらせやヘイトスピーチが頻発。特に近年では、ミャンマーを追われたロヒンギャ難民の保護が、これを加熱させる一因となってきました。その中心には、過激派仏教僧に率いられるボドゥ・バラ・セーナ(BBS)と、ナショナリスト組織マハソン・バラカヤがあります。このうちBBSは、ミャンマーでロヒンギャ排斥を主導する過激派仏教僧の集まりであるミャンマー愛国協会とも結びついている一方、やはりムスリムを迫害するヒンドゥー教徒を支持者に抱えるインド政府にも「反ムスリム」の共闘を呼び掛けています。そこでは宗教の教義は大きな問題ではなく、仏教ナショナリストは「自分たちと異なる、気に入らない少数者」を排斥することを政治的な目標にしているといえます。これらの組織はSNSでのヘイトスピーチを通じて参加者を募り、これに呼応するシンハラ人による行為は徐々にエスカレート。2014年7月には首都コロンボの南にあるアルトゥガマのムスリム居住区を、BBSに扇動された数百人のシンハラ人が襲撃し、2人が死亡しました。ところが、これらの事件をスリランカ政府は腫れ物を触るように扱ってきました。(つづく)
>>>この投稿にコメントする
修正する
投稿履歴
(連載1)スリランカは「右傾化する世界の縮図」
六辻 彰二 2018-03-26 11:21
┗
(連載2)スリランカは「右傾化する世界の縮図」
六辻 彰二 2018-03-27 10:31
一覧へ戻る
総論稿数:4819本
グローバル・フォーラム