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2015-12-15 15:37
(連載1)「知財戦略」に問われる国家の器量
芹沢 健
会社員
12月7日付『産経新聞』の一面トップに「人に生かす壮大な知財戦略」という記事が出ていた。iPS細胞(人工多能性幹細胞)の研究でノーベル医学・生理学賞を受賞した山中伸弥・京都大学教授が、iPS細胞がらみの知財を、いかに人類全体の利益のために活用すべく水面下で奮闘したか、その奮闘ぶりが興味深く紹介されていた。
iPS細胞は、莫大な特許料を生み出す「金の卵」である。しかし、たとえば特定の営利企業がその特許を独占してしまえば、その企業はうるおうが、iPS細胞研究は遅れ、人類にとっては不利益となる。そのような可能性を案じた山中教授は、ある製薬会社から知財部門のエキスパートをヘッドハンティングし京大iPS細胞研究センター知的財産管理室長に抜擢し、そのうえでiPS細胞関連の特許を京大が押さえた上で、研究開発を加速させたという。
その結果、山中教授は、再生医療に使用可能なiPS細胞ストックを初めて臨床用に製薬会社などに提供するところまでこぎつけることができ、iPS細胞研究は、実験段階から実用段階へと進展した。山中教授のリーダーシップの下、まさに「人に生かす壮大な知財戦略」が展開されたことで、不特定多数の患者の命を救うことが可能になったわけである。かりに山中教授に、そのような使命感がなければ、現在のiPS細胞研究はまったく異なった様相を示していたかもしれない。
思えば、「イベルメクチン」を開発し、10億人以上を救ってノーベル医学・生理学賞を受賞した大村智・北里大学特別栄誉教授も、数千億円に相当する特許権を放棄し、WHOによる無償配布を敢行したという。一見、戦略性のない慈善行為のようにも見えるが、たとえ無償配布であっても、その技術を元に他の研究者が研究開発を進め、イノベーションの拡大深化へと繋がるのであれば、これも立派な「人に生かす壮大な知財戦略」であるといえる。(つづく)
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