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2007-01-03 09:39

連載投稿(1)企業の社会的責任(CSR)

池尾  愛子  早稲田大学教授
 貿易や海外直接投資など企業の国境を越える活動は、グローバル化推進因子である。民営であれ国営であれ企業が活動を継続していくためには、それぞれの地域社会や自然環境との調和を図り、社会的責任を意識した姿勢が要請されるはずである。つまり、その活動が各地域に及ぼす影響が大きいがゆえに、企業経営のリーダーたちがまず、自分たちのポジションを認識し、社会や環境を考え、責任を感じて、活動する必要がある。

 言い換えれば、企業の財務面での持続可能性を追求するだけではなく、ステークホルダー(株主、従業員、顧客、取引相手などを含む利害関係者)や社会全体の持続可能性が考慮されなくてはならず、途上国から経済資源を調達する多国籍企業の場合には、生態系や生物多様性にも注意を払わなくてはならない。社会や環境が荒廃すると企業活動も行き詰まることを考えれば、社会や環境との調和は安定した企業活動の必要条件である。企業活動の国境を越えた広がりのため、外部不経済を国家が規制するだけでは追いつかず、経営リーダーの社会や環境の持続可能性を維持する活動へのイニシアティブ(主体的、積極的な関与)が求められるようになっている。

 そのイニシアティブは企業の社会的責任(CSR)という形で、グローバル企業の一部でその活動に取り込まれ始めている。各企業のウェブサイトには、各社の商品情報や財務情報だけではなく、CSR活動やCSRレポートも掲載されるようになり、情報通信革命の恩恵によって企業活動の透明性が高まりつつある。そして、透明性の向上は、企業にとって不正や不祥事のコストを高め、公正な取引をめざすコンプライアンス(法令順守)の意識を高める方向にも作用している。企業活動といっても、単に商品やサービスを顧客に提供して利益を上げるだけではなく、きわめて人間的な側面や人間と自然との調和ある関係が重要視されるようになってきた。(つづく)

 
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