これと対照的に、ヨーロッパ各国は総じてICCに好意的で、むしろその設立の中心的存在でもありました。現在、ICC締約国は122ヵ国ですが、西ヨーロッパは25か国、東ヨーロッパは27カ国で、合計すると半分近い勢力です。また、2011年段階の職員数では、第1位のオランダ(91名)を含め、上位10ヵ国中7ヵ国をヨーロッパ諸国が占めています。ICCは、従来は「国家主権の発動」たる戦争において放置されがちだった人権侵害を取り締まるものであり、いわば「法で力を抑える」取り組みともいえます。その実効性や、「法」を運営すること自体が政治権力になる点は、ここでは置いておきます。ここで重要なことは、ICCの設立と運営に尽力するヨーロッパ諸国の姿勢は、まさにICC設立と同じ年、同じ年に始まったイラク戦争を率いた米国政府と好対照だということであり、これはそのまま両者の国際的なイメージとなります。武器の国際移転に関しても、ほぼ同様の観点からみることができます。原子爆弾などと比べて、その危険性が軽視されてきた「小型武器」は、しかし世界の戦場で実際に使用されており、1990年代の戦闘の死者600万人のおよそ半数は小型武器で殺害されたという推計もあります【Ted C. Fishrman, 2002, “Making A Killing,” Harper’s Magazine, 305(1827)】。2001年から国連で小型武器の流通を取り締まるための国際会議が隔年で開催されるようになりましたが、小型武器の流通の脅威に直面するアフリカ諸国とともに、これを各国に働きかけてまわったのはヨーロッパ勢やカナダでした。逆に、小型武器の大輸出国である米国は、やはり中国やロシアとともに、小型武器の商業流通に関する規制をできるだけ小さくさせようと働きかけつづけてきました(国連小型武器会議で提唱された武器貿易条約に、オバマ政権は2013年に署名した)。