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2014-09-19 13:13
(連載2)成長戦略の足元は大丈夫なのか
尾形 宣夫
ジャーナリスト
だが心配なのは、経済最優先でデフレ脱却と景気回復を確かなものにしようとする首相の考えが、果たして「東北を新しい日本創生のフロントランナー」に結びつくかどうかだ。国や地方の公共事業は景気対策で急増したが、人手不足や資材高騰でせっかくの事業が未消化のままとなっているのが多い。来年度予算の各省庁の概算要求は過去最大の101兆円台となった。来年10月からの消費増税を当て込んだ要求額で、成長戦略の特別枠4兆円が設けられた。地域活性化を旗印にした歳出増も目立つ。資材費、人件費の高騰が被災地の復興の前に立ちはだかっている。弱含みの景気の足をさらに引っ張りかねない消費増税対策として新たな景気対策の声も強まっている。満艦飾の成長戦略の中で「復興」が見えなくなる可能性は否定できない。
アベノミクスは見事に東京株価市場を活発化させた。政権発足時の約束だったデフレからの脱却も、大都市圏に限れば個人消費はだいぶ上向いた。だが、最近の景況感は思わしくない。4~6月期の国内総生産(GDP)第2次速報は年率7・1%減と、東日本大震災があった2011年1~3月期(年率6・9%減)を超す下げ幅だった。今年4月の消費増税の反動減が確認されたのだが、個人消費は振るわず、せっかくの円安も自動車産業などごく一部を除いて輸出増に結び付いていない。逆に生活物資を含めた原材料輸入増が貿易収支を悪化させている。雇用情勢は改善に向かっているといっても、非正規社員の割合が増えている状況に変わりはない。こんな状況で消費税の再引き上げができるのか。首相は消費税を再増税するかどうかについて、先日のNHK番組で「7~9月期のGDPを見て専門家の意見を聞く」と語っている。「経済は生き物だ」との認識も示している。確かに経済は生き物だ。政治の差配でどうにかなるものではない。
4~6月期のGDPに対して大手中央紙は「日本の経済『民間主導』へ正念場だ」(朝日新聞社説)、「増税後の景気 消費回復がカギになる」(毎日新聞社説)などと、景気急落への懸念と今後の対応に注文を付けているが、通り一遍の主張の域を出ない。ところが米紙ウォール・ストリート・ジャーナルの社説(8月14日付電子版)は強烈だった。冒頭から「日本経済は4~6月期に崖から突き落とされた」と歯に衣を着せぬ書き出しで始まっている。見出しはずばり「安倍首相は財務省『正統派』を封じ込めよ―増税判断を前に」である。同紙は、財政当局が過去の財政刺激策で経済を回復させようとする試みが失敗したにもかかわらず、相変わらず「増税と歳出拡大を正当化しようとする新たな理由が常に見つけ出されている」と批判すると同時に、日銀の異次元の金融緩和についても「効果は株式相場を酔わせただけで与信拡大への影響は無視できるほど小さい」と切り捨てている。そして安倍首相に対し規制緩和など大規模な構造改革をやり遂げるよう迫っている。アベノミクスに対する、日本のメディアでは見られない痛烈な批判である。
確かに、金融・財政当局が自慢するように異次元金融緩和で市場は活況を呈した。「官製春闘」と言われながら、サラリーマンは久々の賃上げを喜び、夏季ボーナスも個人消費につながった。だが、地方経済の現状を見れば、経済の血液である金融が全身(全国)に行き渡っているとは言えない。首相は内閣改造で地方創生相に前幹事長の石破茂氏を就けたのも、地方経済が直面する問題がいかに大きいかを浮き彫りにした。「アベノミクスの成果を全国津々浦々にも」の言葉は地方創生の施策の拡散を招かないか。かつて疲弊する地域経済の活性化で導入した「がんばる自治体応援プログラム」には、国に採用してもらえずお蔵入りになっていた地域振興策が看板を書き換えて再登場する矛盾をさらけ出した。中央、地方も含めて地方創生事業で同じ手合いが表れないとは言い切れない。創生財源、法的措置をどうするのか、具体策はまださっぱり分からない。(つづく)
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