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2014-06-04 17:09
(連載1)対露制裁と北方領土交渉
袴田 茂樹
日本国際フォーラム評議員
ロシアの力によるクリミア併合に対し、日本を含むG7などが対露制裁に踏み切った。北方領土問題を抱える安倍政権はプーチンとの関係強化に努めてきただけに、対露制裁には慎重だが、G7の協調を乱さないために制裁に加わった。これに対し、5月23日のサンクトペテルブルグにおける世界のマスコミ幹部との会合でプーチン大統領は巧妙な形で、北方領土問題で日本に気を持たせながら、次のようにブラフをかけてきた。「最近聞いて驚いたのだが、日本は制裁に加わったという。何故なのか私にはよく解らない。そうなると、平和条約交渉のプロセスを止めることになる。ロシアは今後もこの問題を討議する用意があるが、日本はその用意があるのか、私にはそのように思えない。」ここには、秋には話し合いで訪日する予定だが、それをキャンセルしてもよいのですか、との脅しの含みもある。では、日本として、これに対してどう対応すべきか。
私はロシアに対しては、メリハリのある対応をせよと主張してきた。つまり、対中、対韓、対朝関係が最悪の状況にあるとき、それらの国に対応するためにも、また経済、安全保障面でも、日露の互恵的な関係は重要なので、大きな長期的枠組つまり戦略的方針としては、日本はロシアとの関係は良好にきちんと保つべきである。そして、大局的にロシアとの関係を重視し、良好な関係を目指すという方針は、公式、非公式に、あらゆるチャンネルを行使して、ロシア側に誤解なくきちんと伝えるべきだ。しかし同時に、主権侵害問題など個々のイシューに関しては、他国への影響も考えると日本としてどうしても譲れない線がある。したがって、ロシアに対しても、たとえ一時的にロシアを怒らせても、主張すべきこと、批判すべきことはきちんと述べるべきだ。クリミア問題に関しては、G7の中で、ロシアに主権と領土保全が侵されている国は日本だけである。換言すれば、ウクライナの痛みが本当に理解できる国は日本だけだ。この状況で、日本が言うべきことをきちんと言わないで、誰がいつ言うのか。
日本をめぐる主権侵害に関して、中国との尖閣問題が将来沖縄問題にまでエスカレートする可能性もある。日本がウクライナの主権侵害問題できちんとした態度をとらず、将来中国との領土問題がより深刻化した時に大声で叫んでも、ウクライナも世界も冷ややかに見るだけで、理解は得られないだろう。日本はあまりにも自分勝手だ、と。安倍首相がクリミア問題で中国問題を念頭に、これはグローバルな問題だとしてロシアを強く批判したのも当然だ。対露制裁では「日本は不本意ながら欧米に追随した」と見られるのは最低である。これはまさにロシアによる主権侵害の問題であり、日本こそ主体的に対応すべきだ。
日本が主張すべきことも主張しないでロシアに迎合的態度を取るならば、ロシアは大いに喜ぶが、実は内心日本をバカにし軽蔑する。逆に、日本が批判すべきことをきちんと批判すると、その時は不快感を示すが、日本に一目も二目も置き、つまり内心日本を尊敬し、長期的にはそのほうが平和条約問題の解決に寄与するのだ。メリハリのある外交は、実際には微妙で至難の業であるが、それが外交というものである。(つづく)
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