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2014-03-18 19:02
(連載1)プーチン大統領のクリミア侵攻目的
六鹿 茂夫
GFJ「日・黒海地域関係研究会」代表
クリミア自治共和国選挙管理委員会の発表によれば、3月16日にクリミアで行われた住民投票の投票率は8割を超え、そのうちロシア連邦への帰属に賛成票を投じた人は97%に達した由である。ロシア軍のクリミア侵攻を国際法違反であると批判してきたウクライナおよび国際社会は、同住民投票はウクライナ憲法に違反するばかりか、外国軍の駐留の下で行われたものであるとして、住民投票そのものを認めないとしている。今後ウクライナは、筆者が3月11日のエッセーで提示した複数の選択肢のうち、どのシナリオに沿って進んでいくのであろうか。それを決定する諸要因として、ロシア、ウクライナ、国際社会の動向が考えられるが、ここではロシア要因、とりわけプーチン大統領にクリミア侵攻を決断させたロシアの国内要因について考察したい。同要因は、ロシアのウクライナ戦略上において、地政学的・戦略的要因と同様、重要な要因と思量されるからである。
プーチン大統領の最優先課題が体制の維持にあることは言うまでもない。キエフで起こったマイダン革命は、ロシアの反体制運動を刺激し、ひいてはプーチン体制を揺るがしかねない危険性を孕んでいた。それ故、プーチン大統領はマイダン革命がロシアに伝播しないよう、国内外に向け断固たる態度を示す必要があったのである。その背景には、2011年秋のロシア下院選挙および翌年春の大統領選挙と絡んで、ロシアで反体制デモが頻発してきたことがある。また、このロシア社会の蘇生と関連して、欧米諸国がロシアの民主化を重視し始め、プーチンの権威主義体制を批判し始めたこともある。さらに、欧米によるウクライナの民主化支援策は、一つには、EU/NATOの近隣諸国となった同国を民主化を介して安定させ、ひいてはEU/NATOの安全保障を高めることを目的としているが、もう一つ、ウクライナの民主化を介したロシアの民主化も目指している。それらを熟知するプーチン大統領は、反政府デモと断固闘う姿勢を国内外に示すことで、マイダン革命のロシアへの波及に釘をさそうとしたのである。
プーチン大統領は3月4日のロシア人記者との質疑応答において、国民が選挙を通じて選んだ正当な大統領を暴力によって打倒する行為は非合法であると執拗に繰り返した。そして「私はこのような手段がウクライナや旧ソ連邦地域で起こることに断固反対する」と述べ、「もしある人の違法行為を許せば、他のあらゆる人の違法行為も許すことになり、カオス(無秩序な状態)を生じる」として、「憲法その他の法律を尊重するようロシア社会を教育する必要がある」とまで言い切った。さらに、同大統領は、ヤヌコーヴィッチ大統領が電話をしてきた時、「武装解除すべきでない」と忠告したことを明らかにし、それにもかかわらずヤヌコーヴィッチ大統領が警察に退去命令を出したが故に混乱状態に陥ってしまったと批判した。このように、プーチン大統領は、マイダン革命のロシアへの波及を武力を行使してでも断固封じ込める決意を国内外に向かって誇示したのである。また、プーチン大統領は「西側のパートナーはウクライナの反政府勢力を2度にわたって支持し、同国を混乱に陥れた」と非難し、「反政府抗議運動の中にリトアニア、ポーランド、ウクライナで訓練をされた特殊部隊が投入されていた」と指摘した。そして、「クリミアの特殊部隊がマイダンの特殊部隊より悪質であると批判する理由はどこにもない」と述べ、クリミアへのロシア特殊部隊の派遣が、マイダン革命に対する対抗措置であったことを示唆したのである。
ここから、プーチン大統領にクリミア軍事侵攻を決断させたもう一つの理由が、マイダンにおける敗北者の汚名を返上し、クリミアを制覇することで、勝利者として凱旋することにあったことがわかる。確かに、マイダン革命は、プーチン大統領のそれまでのウクライナ政策の成果を台無しにした。同大統領は2012年秋、ヤヌコーヴィッチ大統領に関税同盟に加盟するよう促し、後者が「3+1」方式を唱えて政治的コミットメントのない部分的加盟案を逆提案すると、プーチン大統領は「関税同盟への完全なる加盟か、あるいは加盟しないか、の2つの選択肢しかない」と迫った。そして、翌年夏からウクライナに対して厳しい経済制裁を断行して、同国経済を麻痺させ、EUの東方パートナーシップ・ヴィルニスサミット直前に、ヤヌコーヴィッチ大統領の連合協定署名を阻止することに成功した。ところが、この連合協定の署名見送りがマイダンにおける反政府デモを惹起し、事態が究極的局面を迎えると、プーチン大統領は、ヤヌコーヴィッチ大統領に対して武力弾圧を行うよう迫った。「もしウクライナ政府が断固たる措置をとらなければ、ロシアは約束した経済支援を停止する」と圧力を掛け、ウクライナの連邦化にも言及したと言われる。このようにして、プーチン大統領はマイダン革命と真っ向から対峙し、ウクライナ反政府勢力との闘争における当事者に躍り出たのである。(つづく)
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