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2014-03-11 20:50

(連載2)ロシアのウクライナ戦略と将来のシナリオ

六鹿 茂夫  GFJ「日・黒海地域関係研究会」代表
 ロシアの対ウクライナ政策は、上記グルジアモデルに相似している。ロシアは、クリミアの自治とセヴァストーポリのロシア黒海艦隊基地の租借と引き換えに、ウクライナの領土保全を保障した。しかし、本年2月22日にウクライナ議会がヤヌコーヴォッチ大統領の罷免と5月25日の大統領選挙の実施を決議し、27日に親欧米政権が誕生して、ウクライナがEUとの連合協定締結へと向かう可能性が高まると、ロシアはウクライナの領土保全支持政策を放棄し、クリミアの未承認国家化(ウクライナからの分離独立)に着手した。ロシア軍が2月26日にウクライナ近郊で大規模な軍事演習を開始し、翌27日から28日に掛けてロシア特殊部隊がクリミアに侵攻した。同部隊は、クリミアの議会、行政府、放送局、ウクライナ軍基地を占拠し、半島の入り口の陸路を遮断し、シンフェローポリ空港とセヴァストーポリ近郊のベルベク空港を占拠してクリミア半島の孤立化を図った。そして、27日にクリミア議会によって同地行政府首長に選出されたセルゲイ・アクショーノフ氏は、ロシア系住民の保護のためと称してロシア軍の介入をプーチン大統領に要請した。

 また、同日議会は、クリミアの自治拡大を問う住民投票を、5月25日に実施することを決議したが、後に3月30日の実施に繰り上げた。さらに、ロシアに逃亡したヤヌコーヴィッチ元大統領は、28日の記者会見で自らを正当な大統領であると主張し、秩序回復のために軍隊を派遣するようロシア政府に依頼した。そして、ロシア連邦議会は3月1日、プーチン大統領の求めに応じて、ウクライナに対する軍事力の行使を容認し、同日ロシア軍が軍事演習の一環としてクリミアに侵攻した。ウクライナ政府代表者は3月3日の声明で、6000名のロシア兵がウクライナで活動をしていると述べ、ロシアの軍事介入はウクライナに対する侵略行為であると非難した。その根拠として、ウクライナ政府は、外国軍の派遣を要請する権利は唯一議会にあること、またヤヌコーヴィッチ氏はウクライナ議会において過半数の賛成で罷免されており、その人物によるロシア軍派遣要請が正当性を欠いている点を指摘した。

 3月4日にプーチン大統領はクリミアをロシアに帰属させるつもりはないと述べたが、その二日後、クリミア議会はロシアへの帰属を問う住民投票を3月16日に行うことを決定した。同国憲法が地域単位での住民投票を認めていないことから、ウクライナ政府は同住民投票を違法であるとし、国際社会もその結果を承認しないであろう。しかし、アブハジア、南オセチア、トランスニストリアで行われてきた法的地位に関する住民投票、大統領選挙および議会選挙はいずれも国際的に承認されてこなかったが、実質的にはその国際的に認知されない選挙で選出された大統領、政府、議会が、駐留ロシア軍の庇護の下で、未承認国家を創設し運営してきたのである。

 ウクライナの将来については、次の4つのシナリオが想定される。第一は、ロシア軍がクリミアから撤退して原状が回復されるシナリオ、第二は、コザック・メモランダムに則ったウクライナの連邦化である。後者の場合、西部、東部、クリミアの三つの自治体で構成される連邦制と、西部と東部・クリミアの二つの自治体からなる連邦制があり得る。第三は、クリミアがウクライナから独立するシナリオで、その場合クリミアが独立国家となるか、独立宣言後ロシアに帰属するか、二つの選択肢がある。他方、ウクライナ本土は、これまで通り単一国家であり続けるか、東部と西部からなる連邦制を敷くかの二つの可能性が存在する。第四は、クリミアに加えて東部もウクライナから独立するシナリオで、ここでは、ウクライナが、(1)西部、東部、クリミアの三つの独立国家に分割される、(2)西部と東部・クリミアの二つの独立国家に分割される、(3)東部とクリミアがロシアに編入されて西部のみウクライナ国家として残る、という三つの可能性が考えられる。(つづく)
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