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2006-11-01 12:02
省エネ型家電への転換による環境対策プロジェクト
池尾 愛子
早稲田大学教授
10月26日の国際協力銀行の新聞発表によれば、25日に、同行、中国の能源研究所(エネルギー問題に関する国家研究機関)、中国節能協会節能服務産業委員会(省エネサービス企業の業界団体)の3者間で、省エネ型家電製品への転換により京都議定書に定められた温室効果ガス(二酸化炭素など)の排出削減に資するプロジェクトを遂行するための業務協力協定が締結された。装置産業での省エネが利益獲得につながりうるにもかかわらず、中国ではなかなか進まない状況にある。それゆえ、本プロジェクトでは、設備投資額が相対的に小さく、そのため事業の実施までの期間が短いと推測される分野での協力が図られ、かなりの人手と手間はかかるかもしれないが、まさに省エネと環境対策の一石二鳥の効果を期待できる画期的な方法論が含まれている。
10月21日の日本経済新聞夕刊(スクープ)でいち早く報道されたとおり、第1弾として中国の能源研究所等が検討しているのは、家庭で使われている白熱灯からエネルギー効率のよい省エネ型蛍光灯に換えられるように補助金で誘導するプロジェクトであり、対象地域は河北省の省都石家荘市(人口約1000万人)である。同紙によれば、蛍光灯の平均価格20元(約300円)は白熱灯の平均価格の10倍であり、消費者は蛍光灯を購入後、中国政府が設けた拠点に購入証明書を持ち込めば10元前後が払い戻される計画で、その原資には排出削減クレジット(排出権)の売却益などを充てることになっている。市全体で電灯の半分を省エネ型蛍光灯に交換すれば、出力50万キロワットの発電所に相当する電力需要を減らすことができるという。事業の成果を見ながら、他の主要都市に同プロジェクトを広げるほか、他の省エネ型家電への転換促進、さらにアジア地域への拡大も視野にある。
中国の若い研究者たちからは、同国の「第11次5カ年計画(06-10年)」には省エネ・環境対策について以前に比べると詳細な内容が含まれたものの、一体どうすれば省エネ政策が効果的に実施されるのかがわからないという声が聞こえてきていた。それゆえ、補助金で支援・誘導するといった政策の実施のノウハウが中国側に伝授されれば、本プロジェクトは一石三鳥の効果を持ちうるかもしれない。
ところで、本プロジェクトは、いわゆる京都メカニズムのうちの1つであるクリーン開発メカニズム(CDM)を利用することをうたっている。つまり、京都議定書に署名した先進国の企業等と途上国が共同で行う温室効果ガス削減事業が国連CDM理事会(ドイツ・ボン)によりCDMプロジェクトとして承認・登録されれば、当該先進国企業による途上国での排出削減クレジット獲得として自国の削減目標達成に算入したり、あるいは他国にそれを販売したりできる。中国はCDM理事会登録のCDMプロジェクトの年間二酸化炭素削減量でトップであり、中国政府はCDM促進策を堅持している。日本の場合、国内の努力だけでは温室効果ガスの排出削減目標(1990年比マイナス6%)達成は困難であると認識されており、中国を含む途上国や体制移行国での排出削減クレジット獲得が急務なはずである。本プロジェクトでは、国際協力銀行、中国能源研究所、中国節能協会節能服務産業委員会の3者が、(1)中国のCDMプロジェクトに係る情報交換・協議を行い、(2)その情報を、国際協力銀行が日本カーボンファイナンスなど日本企業等に提供し、(3)同行による金融面での支援の可能性を検討するとされており、今後の効果に期待が寄せられる。
本プロジェクトは、当初には中国能源研究所と社団法人日本電機工業会等によるCDMプロジェクト方法論として提出されたものの、7月の第25回国連CDM理事会において、専門家のレビューや方法論パネルの報告を参考に、条件付差し戻し勧告を伴うB判定となった(NMO157、国連気候変動枠組条約ホームページ http://cdm.unfccc.int/)。エネルギー効率の高い家電製品等への転換により温室効果ガス排出削減をめざす需要管理型『製品CDM』の方法論には、転換前のベースライン・シナリオの想定、節電量のガス削減量への換算などクリアすべき技術的な課題があるとされたようだ。1度目の申請で承認されなければ方法論の再提出が必要になる。方法論提出からプロジェクト実施(同時進行になる可能性がある)、そして排出削減クレジット獲得に至るまでの手続きを円滑に進めて、一石を投げて二鳥か三鳥を落とすためには、CDMプロジェクト方法論作成のノウハウを相手国と協力して蓄積する必要があるだろう。
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