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2013-12-03 12:35
(連載)同盟国間の盗聴は裏切りか(1)
袴田 茂樹
日本国際フォーラム評議員
ドイツやフランスで、米国の機関による盗聴問題が表面化し、欧米間が政治的にギクシャクしている、と報じられている。同盟国でありながらこのような行為をするのは、信頼関係を崩すものだとして、首相や大統領がテレビなどで公然と米国を批判するようになり、欧米関係が冷却化しているのだ。この報道を見て、私は欧米の政治家たちの意識がかなり変化しているのではないかと感じた。首相や大統領など国家の安全に責任をもつ立場の政治家が、以前よりも素人っぽくなっていると感じるのだ。もしそうでないとしたら、以前よりも偽善的になっているか、あるいはポピュリスト的になっているとも言える。
現在の素人的な政治家たちに対比する形で私が思い出すのは、英国のチャーチルの有名な言葉だ。彼は、英国にとっての仮想敵国はどこかとジャーナリストに尋ねられて、「自国以外はすべての国が仮想敵国」と明快に答えた。すなわち、米国など同盟国も含めてすべての国が仮想敵国だと断言したのだ。国家の安全保障に絶対的な責任を負う政治家としては、当然の言葉であり、またこれは現実民主主義のイロハでもある。その対極は「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持する」と述べる日本国憲法前文の理想主義である。
ここで欧米間の最近の盗聴問題を概観してみよう。通信傍受などを行っている米国の国家安全保障局(NSA) が、欧州でメルケル首相などの携帯電話などを盗聴していたことが明らかになった。報道によると、米国のこのような行為は、同盟国としての、また同じNATO加盟国としての信頼関係を根本から崩すとして、メルケル首相も激怒し、友人同士の間で監視し合う行為は信頼関係に対する裏切りであり、重大な信義違反だと米国を非難した。またフランスのオランド大統領も、国内通話が米国によって盗聴されたとして、オバマ大統領を「プライバシーの侵害」として非難した。さらに、メルケル氏の場合、市民がスパイし合うという極端な情報監視下にあった東ドイツに育ったので、彼女はこのような問題に特に過敏なのだ、といった解説も流布した。このような盗聴事件に対して、欧州では市民が街頭デモで米国に抗議する、という状況にまで発展しており、米欧関係が冷え込んでいるという。
一方、米国は、英国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドなどの英連邦諸国とは、機密情報を相互に交換し、またお互いに盗聴しないという関係を結んでいる、とも報じられた。米国と比べて欧州はプライバシーの保護に敏感で、欧州ではこのような問題を放置できないのだという見解もある。(つづく)
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袴田 茂樹 2013-12-04 10:53
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