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2013-03-12 22:12
(連載)米国の戦略重点は再び欧州と中東に移るのか(2)
河村 洋
外交評論家
ヨーロッパと中東を戦略的に重視してゆくということは、米国はこれまでの政策を再考するものとも理解できる。アフガニスタンに治安権限が完全に委譲される2014年以降、駐留米軍を削減するというオバマ政権の方針は厳しい批判にさらされている。さらにオバマ政権は、アフガニスタンのカルザイ大統領とワシントンで首脳会談に臨む前に、兵員駐留の規模をイギリスよりも少なくしようとさえ考えていた。マケイン上院議員は、1月13日放映のCBSテレビでのインタビューで、「アフガニスタンでの米軍を急激に削減すればテロとの戦いでアメリカが弱腰だと受けとられかねない」と述べた。ジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究学院のバリ・ナスル学院長はさらに厳しく、「カルザイ氏の立場に立てば、基本的にイラクのマリキ首相が行なったのと同様の損得勘定をせざるを得なくなる。米軍の規模が充分でなければ、駐留してもらう意味があるだろうか」とまで評している。
オバマ政権は2014年4月に実施されるアフガニスタンの大統領選挙までは32,000人の兵力を維持すると表明しているが、国防総省のリトル報道官は「現政権としては2014年以後の駐留米軍の規模は検討中で、最終的な決断は下していない。(中略)同盟諸国やアフガニスタンとも協議を続け、二つの基本的な任務の遂行に最善な方法を模索してゆく。それはアル・カイダおよびその関連組織の残党への攻撃目標設定、そしてアフガニスタン治安部隊の訓練と装備である 」と述べている。戦略的にも重要なアフガニスタンが、オバマ政権が中東にどこまで関わり、超大国の役割にどのようなビジョンがあるかを見極める試金石である。
アメリカが太平洋の地域大国ではなく世界の超大国としてバランスのとれた戦略上の重点地域設定を行なうことは、日本、オーストラリア、韓国その他のアジア同盟諸国にとっても国益に適う。アジア回帰が行き過ぎたものになるとヨーロッパが蚊帳の外に置かれるようになり、彼らが内向き志向を強めてしまう恐れがあるし、アジアは中国の地政学的野心と北朝鮮の核の脅威に対処するうえで、アメリカだけでなくヨーロッパ主要国の力を必要としている。さらに中東の安全保障はアジア・ヨーロッパ双方にとって共通の利益に関わる。その中でもイスラム過激派は最も差し迫った脅威である。今年のアルジェリア人質事件では、テロリストはアジア人であろうと欧米人であろうと非イスラム教徒の外国人を襲撃した。歴史的に見て、イスラム過激派はキリスト教徒とユダヤ教徒だけでなく、ヒンズー教徒や仏教徒にも攻撃の手を加えた。彼らのテロリズムは「西欧十字軍」への抵抗ではなく政教分離と自由主義に基づく世界秩序の否定である。
エネルギー安全保障という観点からも、アジアにとってアメリカの戦略的重点地域がバランスのとれたものであることが必要である。アジアの新興経済諸国は中東からの石油と天然ガスの輸入に依存しているため、アメリカの中東撤退はこれらの国々の利益にはならない。また、日本では野田政権が中央アジア諸国と天然ガスの供給について合意したことに留意しなければならない。この合意によって、アフガニスタンは潜在的に将来のパイプライン敷設の通路となる。さらにフォルド事件で2人の北朝鮮人が死亡したことから、イランと北朝鮮の抜き差しならぬ関係も白日の下にさらされている。(つづく)
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