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2013-01-08 07:03
中国に“尖閣紛争”の魂胆はない
杉浦 正章
政治評論家
今年の日本外交最大の課題は何と言っても尖閣問題だが、昨年9月の反日暴動以降の中国政府の出方を観察すれば、中国には事態を武力紛争に発展させる魂胆はないということだろう。領海・領空侵犯などで“ちょっかい”はだしても、それを“紛争”に発展させることはないだろう。今の軍事力ではとても日米連合軍に勝つ能力はないことを知っているからだ。一方で、中国国内を見れば、民主化・言論の自由を求める動きが新たに台頭し、各地で頻発する“格差暴動”や“汚職暴動”などで足元が揺らいでいる。筆者は、中国が“尖閣紛争”に出て敗れれば、日露戦争でロシア革命が起きたのと同様に、民主化革命がほぼ確実に発生して、共産党独裁体制が危うくなると見る。従って、日本政府が当面なすべきことは、尖閣では譲歩することなく、ゆるやかな対中封じ込めで、包囲網の輪を広げていくことだ。もっとも興味ある事態が、1月7日発生した。広東省に拠点を置く新聞『南方週末』が、3日付けの新年号で、政治の民主化や言論の自由などを求める記事の掲載を予定していたところ、地元当局の指示で、記事の内容を大幅に改ざんさせられたのだ。これに対する抗議の輪が北京のジャーナリストにまで広がっている。習近平が最高指導者に就任して間もないこの時期に、国内で動揺が広がっているのだ。『南方週末』の本社前では7日、記者たちを支援する300人を超える群衆が集まり、公然と抗議の声を上げた。テレビの前で勇敢にも当局を非難する声が上がったのだ。
習近平は、弾圧か、封じ込めか、放置か、の選択を迫られている。当局はネットへの書き込み規制に躍起だが、ネット規制はいたちごっこで、効果は上がるまい。ネットには改ざん前の記事が公開された。共産党政権初の公然たる民主化要求の波が立ったのだ。一方で、中国の人口13億人のうち、9億人が農村戸籍であり、都市部の経済発展に反比例するかのように格差が広がっている。党幹部の汚職、不正も目に余るものがあり、不満はマグマとなって噴出を繰り返している。尖閣国有化は、中国政府に、こうした国民の不満に絶好のはけ口を与える結果となった。この愚を日本政府は繰り返してはならない。石原慎太郎が船だまりと公務員常駐を主張して、安倍がこれに雷同したが、そんなことをすれば絶好の機会として習近平は活用するだろう。再び官製暴動だ。軍事衝突も視野に入れるかも知れない。
それにつけても日本の外交力は落ちた。こともあろうに、自由主義圏ナンバー2の日本の新首相が大統領・オバマに会いたいというのに、ワシントンの大使館はアレンジも出来ない。急きょ外務次官を派遣するという体たらくだ。首相・安倍晋三は仕方なく初外遊を米国ではなく東南アジア歴訪に切り替えようとしている。その米国は、政府も議会も中国の台頭と南シナ海、東シナ海での暴走に手をこまねくつもりはない。米元国務副長官・リチャード・アーミテージは、「中国はアジアの覇権を着実に握ろうとしており、中国の影響力は米国をしのぐ可能性もある」と危惧(きぐ)の念を表明。「アメリカが関与しない限り、太平洋は中国の湖になってしまう」と危機感を募らせている。おそらく米国は沖縄ー尖閣ー台湾ーフィリピンと続く第1列島線で中国の海洋進出を食い止めるため、尖閣を戦略上の重要拠点と位置づけ始めているのだろう。南沙諸島と異なり、日本の軍事力も活用できる。尖閣で中国が軍事衝突に出れば、日本の施政権の及ぶ範囲である尖閣限定の対中戦争も辞さないだろう。日本は好むと好まざるとにかかわらず、「米中冷戦の構図」に組み込まれる流れだ。
こうした力関係の中で日本政府は今年の尖閣問題にどう対処すべきだろうか。外交筋によると裏舞台における外交上の焦点は、「尖閣諸島に領土問題は存在しない」という日本側の主張を日本政府が変更するかどうかに絞られているといわれる。中国は、変更させて、日本を交渉の場に引きだして、圧力をかけ続けるというのが選択肢の一つだというのだ。安倍周辺によると、安倍は中国大使・程永華と秘密裏に会談を続けており、その辺を話し合っているに違いない。しかし、尖閣問題で日本は外交的にも軍事的にも優位にあるのであって、国際的にも認められている尖閣領有権問題で譲歩する必要はさらさらない。鄧小平が棚上げしたことを懐かしがる風潮が日本にはあるが、甘い。鄧小平は日本の経済・技術獲得が尖閣に優先する課題であると判断しただけである。GDPで日本を追い抜いた以上、生きていれば真っ先に尖閣領有権を主張するであろう。中国は世界史的に見ても超大国になる必須条件として自らの海洋国家化が不可欠とみており、この路線が今後拡大こそすれ、縮小することはない。経済力の拡大が必然的にシーレーンと海洋拠点の確保、エネルギー資源の新規獲得に向かわざるを得ないのだ。そのせめぎ合いの中核に尖閣諸島が位置づけられるのだ。これに対抗するには、筆者がかねてから主張しているように、日米結託してインド、東南アジア諸国、オーストラリアなど自由主義の価値観を共有する諸国との間にゆるやかなる対中包囲網を築き、中国の暴発を封じ込めるしかあるまい。もちろん中国は領海、領空侵犯でちょっかいを仕掛けてくるが、これはあくまで国内向けのちょっかいであり、本気ではない。ハエを追うように追い払えばよいのだ。政治・安保と経済は別次元で考えるべきだ。昔から対中関係は「政経分離」という便利な言葉がある。当面はこれでいくしかない。こうした状況下での安倍の東南アジア歴訪は意義が深い。
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