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2012-08-30 13:36
(連載)反中、反韓世論の高まりについて思う(1)
六辻 彰二
横浜市立大学講師
韓国大統領の竹島上陸や天皇の「訪韓」発言、また香港漁船の尖閣諸島上陸と、日本では急激に近隣諸国との摩擦がヒートアップしていることは、日々のニュースで伝えられている通りです。いずれも、基本的には中韓両国の国内事情、特に政府の置かれた立場を反映するものといえます。なかでも韓国の李明博大統領の場合、政権関係者の汚職問題や経済問題などで支持率が低迷するなか、今年12月の大統領候補選挙を控え、根深い反日感情を政治的に利用していることは明らかでしょう。さらにまた、香港や中国の場合も、言論統制などに対する当局への不満が鬱積するなか、反日的なアピールだけはある程度許容することで、結果的に共産党にとってはガス抜きの効果があるのです。いずれも、国民の間に根深い反日感情が背景にあるわけですが、政権担当者たちがそれを政権維持のために利用している、という側面も否定できません。その意味で、多くの日本人が「理不尽だ」という憤りや反発を覚えることは、無理のない話です。
一方で、なぜこのように、日中、日韓の関係がギクシャクするのかを考えたとき、戦後賠償のあり方や歴史認識の問題だけでなく、それぞれの社会、あるいは世界全体の情勢が大きく作用しているといえます。1929年の世界恐慌後、やはり多くの国で狭隘なナショナリズムと排外主義が渦巻きました。個人レベルでもそうですが、社会においてもやはり、「なりたい自分」と「現にある自分」の間の乖離が激しい場合、そしてその差を埋めるために頑張ってみてもうまくいかない場合、それはストレスとなります。もちろん、そう簡単にストレスを発散させることはできないため、それは蓄積しがちです。それがリミットを越え始めると、人間は精神の安定を求めて「はけ口」を求めます。つまり、不満や憤りをぶつけられる対象です。第一次世界大戦後、巨額の賠償金を背負わされ、さらに世界恐慌が重なったドイツで、ユダヤ人や同性愛者といった「ゲルマン人らしくない」人たちをスケープゴートにしたナチスが人々の支持を集めたことは、偶然ではないでしょう。
現下の世界は-オリンピックで一時的に気分転換ができたとしても-ヨーロッパの信用不安に端を発する不景気の只中にあります。日本から見れば好調に写る中国にしても、格差の増加だけでなく、ヨーロッパ向け輸出の不振から成長が鈍化しつつあります。情報端末や薄型テレビなどが好調の韓国も、貿易に依存した経済構造から、今年は2008年の金融危機後、最悪の交易条件に直面しているともいわれます。日本については、もはや言うまでもありません。すなわち、他者からみてどうかではなく、それぞれの社会の基準からして、社会的、経済的な不安とストレスが増幅していることは確かです。
このなかで、中国や韓国の政権担当者たちにとって、日本が「不正義」と名指しすることに、少なくとも国内の政治的リスクが少ない存在としてあることは確かです。そして、領土問題という、外交で処理することが最も困難な部類に属しながら、最も国民感情に訴えやすい部類の問題があれば、引火することは簡単です。いわば、日本は中国、韓国のストレスの「はけ口」になっている側面があるのです。(つづく)
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六辻 彰二 2012-08-31 01:43
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