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2012-04-05 00:43
(連載)消費増税より相続資産からの課税強化を(3)
鈴木 亘
学習院大学教授
加えて、1997年度の消費税の2%引き上げで、当時景気が回復しかけていた日本経済が奈落の底に突き落とされたことからも分かるように、消費増税は景気に明らかにマイナスの効果をもたらす。GDPが3.6%もの成長をしていた当時でもマイナス効果はあれほど大きかったことを考えると、今回のデフレが続く中での5%引上げは、日本経済に大打撃をあたえるだろう。
これに対して、財務省は97年度の景気急落は、97年の夏から始まったアジアの通貨危機や、北海道拓殖銀行や山一証券の倒産といった金融危機が原因だと主張し、消費税引き上げは景気に影響を与えていないと主張している。それを証明した経済学の学術論文もあるという。しかし、私がそういった論文を読むと、せいぜい言えることは、97年夏の景気急落は、その前の消費税引き上げの影響が続いているのか、アジア通貨危機や金融危機の新たな効果なのか、同時に起きていることなので「識別不可能である」ということだと思う。消費税引き上げの効果が、アジア通貨危機や金融危機が起きる前の3ヶ月間に「出つくした」と仮定した議論をしている論文もあるが、これは理論的にも実証的にも明らかにおかしい。
だいたい、アジア通貨危機や金融危機が不況の真の原因で有れば、それが解決すれば景気や税収は元に戻るはずではないか。しかしながら、97年度を境に、景気も税収も元に戻らず、15年もたった未だに低迷を続けている。こうした恒常的なショックをアジア通貨危機や金融危機で説明することには無理がある。むしろ、税率引き上げのようなものこそ、恒常的ショックの原因としてふさわしい。
第四に、消費税には「逆進性」がある。逆進性とは要するに低所得者に厳しい税であると言うことだ。低所得者を支援する社会保障・社会福祉の財源を、低所得者に厳しい方法で取り立てることは明らかに論理矛盾だ。野田政権は、低所得者に還付をすると言うが、誰が低所得者で誰がそうでないか所得把握できない現行の仕組みでは、税還付は不公平な単なるバラマキに終わる。この点、民主党政権が進める国民背番号制(マイナンバー制)の導入も、肝心のストック(資産)把握をする手段を講じていないから、不完全な所得把握を税と保険料でつなげるだけのことであり、意味をなさない。所得把握と言う面では、益税があり、インボイスの無い現行の消費税は、多くの経済学者たちが指摘しているように、むしろクロヨン、トーゴーサンを広げたトンデモない税制なのである。(つづく)
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