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2012-03-20 13:16
(連載)中国人の対ヨーロッパ経済進出の現状(2)
酒井 信彦
日本ナショナリズム研究所長・元東京大学教授
では何故こんな急成長ができたのか。「成功の秘密は安い原料と労働力。生地は本国から格安で輸入する。移民を長時間働かせて、急な注文にも応じる。労働環境は過酷を極める」。中国系オランダ人宣教師の証言によると、「16時間続けて働き、睡眠は4時間。食事も、寝るのも、工場で、3カ月休まないこともある」という悲惨な状態である。つまり、これは、中国国内の工場のあり方を、人間も環境もセットにして、ヨーロッパの地に移植したものに他ならない。「警察は不法移民を雇う闇工場への摘発を強化」したが、「旅券もビザもない移民を、中国大使館は中国人と認めず、強制送還のための二国間協定もない。工場をたたんで、別の工場を立ち上げて、逃れる業者の多い」という有様であるという。
こんな状況であるから、1990年代後半に約2千社あったイタリア人経営の衣服メーカーは約400社に激減した。つまり、世界でイタリアの洋服と称して売られているものは、その多くが実は中国製と同じことなのである。さすがに現地では反発が出てきており、「左派市政が長年続いてきたプラートでは、2009年、右派の市長が誕生」し、同市長は移民反対を唱えているという。またギリシャのピレウスでは、労働者が中国人だとの明記はないものの、港湾労組が、中国の海運会社は「労働協約を結ばず、組合員よりはるかに低い待遇で労働者を雇っている」と怒っているという。
庶民のレベルでは、このような反発があるのだが、産経が特に言及しているが、ヨーロッパ諸国の政治家達の警戒心のなさである。木村記者は、「欧州には米国のような対中警戒心が薄く、逆に中国マネーや中国企業を歓迎する声が強い。債務危機で金欠病に陥る単一通貨ユーロ圏は、こぞってラブコールを送る」とし、「中国からの投資拡大を図るために北京を訪問したばかりの英オズボーン財務相」は、テムズ・ウォーター株の買収を歓迎したと述べる。ヨーロッパの政治家も、随分とだらしなく劣化したものである。朝日の吉岡記者は、2月4日まで訪中していた「ドイツのメルケル首相は、『我々は開放された市場。保護主義には陥らない』と述べ、積極的な投資を呼びかけた」と書き、それに続けて、「ただ、中国側は反発を懸念しており、温家宝首相は『(欧州資産を)買い占めることはない。そんな考えも、能力も、食欲もない』と説明した」と述べて、記事全体の結びの文章としている。しかしこの温首相の発言は、例の「我々は絶対に覇権を求めない」と全く同様に、本心とは全く逆のことを言っているのである。したがって吉岡記者の記事は、中国政権におもねって、北京大本営報道に明け暮れる、まことに朝日らしい記事と言える。
現在のヨーロッパの事態は、日本にも大きな教訓を与えてくれるはずである。例えばポルトガルでは、電力会社・送電会社の株式が買われているわけだが、原発事故を理由に電力会社を無闇に叩いていると、日本も同様な事態に陥らないとも限らない。私は東日本大震災の直後に、東北地方の基幹産業である水産業が、中国人に買収される可能性に言及しておいたが、それは他の日本の伝統産業でも充分起りえることである。今は日本の高級米が中国の富裕層に売れると無邪気に喜んでいるが、日本の米作そのものが、イタリアの衣料産業のように、中国人に乗っ取られてしまうかも知れないのである。(おわり)
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