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2012-03-15 06:55
亀は「鳴かない」、「泣く」のだ
杉浦 正章
政治評論家
「亀鳴く」は俳句で春の季語だ。亀が鳴くようなのどかな季節を象徴している。拙句に「この昼は四天王寺の亀鳴けり」(毎日俳壇1席)がある。ところが政界の「亀」は無粋にも吠えまくっている。消費増税法案をめぐる国民新党代表・亀井静香の発言は、エスカレートの一途をたどり、いまや政権与党離脱の瀬戸際にまで到達した。狙いは明らかに「新党」ムードの醸成だが、75歳の「後期高齢新党」では、「この指止まれ」も言いかねると見えて、こちらも79歳の都知事・石原慎太郎を看板にしようと懸命。もっとも、展望は開けていない。
日本暴言新党でもあれば、党首になれるくらいのものだ。亀井は「消費増税路線は死出の旅」と副総理・岡田克也の面前で首相・野田佳彦を批判するかと思えば、記者会見では「連立相手に約束したことを破っていく党がどんなことになるのか。地獄に落ちるだけの話だ」とすごんだ。「死出の旅」とか、「地獄」とか、自分が“成仏”に近づいている年齢であることなどはそっちのけだ。ついに3月14日には議員総会で「消費増税法案に賛成できない」と言い切った。にわかに自ら先頭に立って増税反対キャンペーンを始めた狙いはどこにあるかというと、政界相呼応した「消費税の乱」を狙っているのだ。折から民主党は、14日を皮切りに消費増税法案の是非をめぐって党内論議に入った。反対する小沢一郎の勢力と呼応しようという意図がありありだ。民主党内の動きを見て、「乱」を起こして、あわよくば新党への「風」を作り、これに乗ろうというのだろう。そもそも2月の消費増税大綱閣議決定の時は賛成に回り、法案になると反対では筋が通らない。
それにもかかわらず、なりふり構わぬ反対は、国民新党の“埋没感”が根底にある。野田と自民党総裁・谷垣禎一の極秘会談を亀井が「談合」と決めつけたことが象徴している。2大政党の間で存在感がとみに薄れているのだ。しかし、笛吹けど踊らず、亀井の人差し指に止まる政治家は見つからない。消費増税反対も政局化狙いであることが分かっているから、同感する政治家は少ない。亀井が秋波を送り続けているたちあがれ日本代表・平沼赳夫は14日、自らの新党構想について「亀井さんの動きとは関係ない」とにべもなく切り捨てた。消費増税推進論の石原も「消費税では亀ちゃんとは見解が異なる」と述べている。亀井は石原と11日に会談しているが、なかなか新党で一致というところまで行かなかったようだ。最大の焦点である消費増税の是非をめぐって見解が割れるようでは、新党へと発展させるのは容易ではあるまい。
亀井の言うように閣議で消費税法案への署名を金融相・自見庄三郎が拒否すれば、野田は自見を罷免して、自ら署名を代行するか、新閣僚に署名させるしかない。国民新党は連立を離脱することになる。しかし、どうも自見自身は気が進まないらしい。党内にも連立離脱に反対論があり、亀井が強行すれば、党分裂もあり得る様相だ。だから亀井は、14日も公式の会議の場で問題を提起せず、所属議員と個別に会談して、連立離脱問題を協議することにしたのだ。野田に近い官邸筋は、「正直言って、構っていられない」と漏らしている。衆院5人、参院4人のミニ政党がライオンのように吠えてもらっても困るのだという。5人や4人では、もはやいてもいなくても同じなのだ。野田にしてみれば、当面党内のとりまとめに全力を傾注し、法案提出後は自民、公明両党との駆け引きが待っている。大舞台で疝気(せんき)筋が大見得を切っても、ヤジが飛ぶだけだ。かくして亀井の春の季語は「亀鳴く」ではなくて「亀泣く」となるのである。
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