実は、歴史観をめぐって会議中も大いに議論になったのであるが、会議後も関連する議論が喧しく続いていた。国際化・グローバル化が進めば進むほど、ヨーロッパの中でも歴史認識に相違があり譲歩を許さない状況になっている。もちろん会議論文集をまとめる際には、「ユーロセンティズム(欧州中心史観)から脱却する」ことも重要課題だったはずである。闘いとも思われるような議論の結果、分かりにくい(シェアしにくい)とされる議論は削除し、歴史は一つではなく、複数存在することを意識して、『計量経済学に関する諸歴史(Histories on Econometrics)』(デューク大学出版会)という幾らか奇抜なタイトルで落着した。歴史研究では安易な妥協などすべきではないと思う。最後に、インド人の注目すべき功績も当初の研究提案には入っていたものの、書き手がいなかったために、本論集には入らなかったこと、ついでに、大洋州のオーストラリアの歴史家たちはオーストラリア・ベースで研究を推進することを既に宣言していること、アメリカの歴史家たちはアメリカ・ベースの研究を着々と進めていることを記しておく。