ホーム
新規
投稿
検索
検索
お問合わせ
2011-11-21 10:08
(連載)突破口見えない野田TPP外交(1)
尾形 宣夫
ジャーナリスト
人間は追い詰められると自分の正当性を必要以上に強く主張する。特に権力の地位にある者は、その傾向が顕著だ。環太平洋パートナーシップ協定(TPP)交渉参加問題を巡る野田政権の対応も、そうした政治の性(さが)なのかもしれない。TPP交渉参加について米国のオバマ大統領との首脳会談のやり取りを巡る国会での野田首相の「言った」「言わない」は、世界に野田外交の恥ずかしい実体を知らせてしまった。国内世論を二分したまま臨んだ首脳会談のボロが表れたと言っていい。最大の問題は、首相が米・ホワイトハウスに申し入れたという米政府の文書の“間違い“の訂正は、実は正式な「訂正申し入れ」ではなく、首相が国会で野党議員にしつこく追及されて答弁したにすぎない。もちろん国会のやり取りを知っている米側は「訂正するつもりはない」と即座に日本を牽制した。
首相は野党だけでなく与党の追及に「米側が間違いを認めた」として、さらなる事実誤認の確認は必要ないと強弁した。しかし、外交とは「相手が認めた」からそれで済ませられるほど軽いものではない。まして、事は首脳会談でのやり取りである。首相が「了解」したところで、TPP参加各国だけでなくAPEC21カ国首脳らは、米政府が公表した日米首脳会談の中身を「公式文書」として受け止めている。この事実を首相はどうするつもりなのか。この点について首相は「交渉参加の協議の中で説明していく」と言うが、その協議も数カ月後の来春ぐらいから始まるとのことだから、それまでは何もしない、できないと言うに等しい。数カ月後にこの問題を取り出したところで、協議する相手国が、そんな“昔話”にまともに付き合ってくれると思っているのだろうか。
野田・オバマ会談は約50分行われたが、会談冒頭の10分は両首脳だけの話し合いだった。問題となった首相発言は、基本的にこの2人だけの差しの会談で首相が語った内容や、首相がこれまでTPPについて言ってきたことを考慮したというのが米側の言い分だ。 首相は自分の発言について、昨年11月に日本側がまとめた「包括的経済連携の基本方針」に基づいて「高いレベルの経済連携を目指す」という趣旨を話したと説明。この言葉の前段にある「センシティブ品目に配慮しつつ」が抜け落ちていると言う。
ここで気になるのは、首相に同行した長浜博行官房副長官と長島昭久首相補佐官の両政治家が、問題が発覚しても「乗り出すことはなかった」(朝日新聞17日付朝刊)ことだ。特に補佐官の長島氏は、首脳会談に臨む首相に外務省が用意する「発言要旨のペーパーを見ながら話すことは絶対しないように」(読売新聞15日付朝刊)と強く念押ししたという。補佐官の頭には昨年の日中首脳会談で、菅首相(当時)がメモに目を落としながら読み上げた胡錦濤主席との会談が、日本外交の恥を晒したという苦い経験があった。首相が補佐官から言われたとおりメモを見ないで発言したことで「言葉足らず」になった可能性は否定できないが、このメモは米側にも手渡されているという。つまり、「言った」「言わない」よりも、野田政権のTPPに対する「積極的な言動」が米側の評価するところとなり、オバマ大統領が最終的に「決断を歓迎」したわけである。(つづく)
>>>この投稿にコメントする
修正する
投稿履歴
(連載)突破口見えない野田TPP外交(1)
尾形 宣夫 2011-11-21 10:08
┗
(連載)突破口見えない野田TPP外交(2)
尾形 宣夫 2011-11-22 09:37
┗
(連載)突破口見えない野田TPP外交(3)
尾形 宣夫 2011-11-23 00:58
一覧へ戻る
総論稿数:4819本
グローバル・フォーラム