日本人が英語で海外に発信した「日本文化論」は、少数ながらあるにはある。たとえば、鈴木大拙の『禅の研究』、新渡戸稲造の『武士道精神』、岡倉天心の『茶の本』などである。しかし、これらの所説は、いずれも日本文化の特殊性を説くことに終始し、西欧文化との比較とか、普遍的な立場から日本文化を論じるものではなかった。これらと比較して、1920年に中国の文人学者、林語堂が英文で書いた『中国=文化と思想』(MY COUNTRY AND MY PEOPLE)は、中国文化を西欧文化との比較において捉え、また、中国文化の欠点についても率直に批判するという姿勢が、欧米の知識人の好感を得たようである。日本人が書いた日本文化論よりも、林語堂の中国文化論の方がもっとコスモポリタン性があると考えるゆえんである。