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2010-08-10 02:37
(連載)アメリカのアンカー・ベイビーをめぐる憲法改正論争(1)
島 M. ゆうこ
エッセイスト
アンカー・ベイビーとは、アメリカ合衆国で不法移民の間に生まれた個人を指すスラングである。言うまでもなく、アンカーとは英語で船舶に繋ぐ錨のことを意味する。船舶を固定するため海底に沈めて使用する重厚な素材の錨の爪は、水中下の地面に食いつくことによって、鎖でつないだ船舶の安定性を維持する。合法、不法に関係なく、アメリカで生まれた子供は誰でも自動的にアメリカ市民としての特権を得るため、特に両親が不法移民であった場合、その子供はアンカーのような機能を持つことから、この比喩的表現が使用されるようになった。不法移民問題は、国境付近の安全性を懸念する声が高まった9・11以後、論議が過熱するようになってきている。
2005年11月4日放送の『CNN』ニュースで、ベテランのニュース・キャスター、ルゥー・ダーブズが、「不法移民の間に生まれた子供も、市民権とその特権を与えられているのは、おかしな話だと思いませんか」と、その全国放送で問いかけたことも、アンカー・ベイビーをめぐる論争の一因になった。
1868年7月に批准された米国憲法修正第14条は、両親の人種、国籍、移民状態を問わず、アメリカで生まれた全ての子供にアメリカ国民としての市民権を与えた。従って、両親が不法移民であっても、その間に生まれた子供は、自動的にアメリカ国民になる。この寛大な法の下に、アンカー・ベイビーは、平等の権利、保護及び教育の機会を与えられ、家庭では両親の母国語で育ち、学校では英語を学び、バイリンガルとして成長する。先進国アメリカで生きていく移民の子供たちにとって、不法移民の両親と共に貧しい祖国へ帰ることは、非現実的となる。
更に、米国市民及び移民サービス(USCIS)は、21歳以上のアメリカ市民は、スポンサーとして、その両親の永住権取得や帰化を申請することができると明記している。この様な法の便宜性から、アンカー・ベイビー人口の増大と不法移民の市民権取得に反対する声が高まっている。アメリカ移民の歴史的特徴の一例として、ヒスパニック系の人口が多いことは知られている。その理由は、メキシコからの合法及び不法移民の人口が多いからである。メキシコからの不法移民には、農作物の収穫時期にある農地から別の農地に転住するパターンがある。現実的には、最初から意図的に市民権獲得を目指すより、経済目的のためある一定の期間後は帰国するケースが圧倒的に多い。日本と異なり、アメリカの人口は増加の傾向をたどり、不法移民の数も上昇し続ける傾向にある。しかし、近年の不況に加え、前回の投稿で述べたようなアリゾナ州の不法移民取締り強化の影響もあり、不法移民に反対する議員や国民から「140年以上経過した憲法修正第14条は、もはや時代にそぐわない」ことが指摘されている。
不法移民とアンカー・ベイビーの問題を解決する方法として、移民法の取締りを強化することはもちろん、合法的プロセスを踏まえて正当な方法で市民権を取得する人たちの立場を尊重することなども提案されている。提案には2つある。まず、提案Aは、不法移民を連邦レベルで犯罪化することである。現行法では、不法入国は犯罪ではなく、民事法違反であり、罰金又は他の罰が課せられるだけで、刑務所に拘留されることはない。不法移民の場合、罰金以外の他の罰とは、強制送還に他ならない。現行法では、不法滞在が摘発された場合、27州に存在する連邦政府のいずれかの移民裁判所がその不法移民者の処置を決定する。しかし提案Aにより、不法移民が犯罪化されると、連邦地区裁判所を通して最終的に州の刑務所に拘留されることになる。移民法に関係のない現行法の州犯罪には軽罪と重罪がある。可能な罰則は、軽罪の場合、郡の拘置所に最高1年まで拘留される。重罪の場合、州の刑務所で1年以上から終身刑までが適用され、死刑が宣告される場合もある。(つづく)
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(連載)アメリカのアンカー・ベイビーをめぐる憲法改正論争(1)
島 M. ゆうこ 2010-08-10 02:37
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島 M. ゆうこ 2010-08-11 10:00
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