『ニューパルグレイブ』という経済学大事典がある。昨2008年に新しい版が作成され、オンライン契約版も利用可能になった。この新版では消えたが、前の1987年版には「ポラーク(Polak, Jacques Jacobus, 1914-)」の項目があった。執筆者はS・C・ツィアングで、この項目を読むと両者はともに国際通貨基金(IMF)で働いていたことがわかる。ポラークはオランダ出身で、国際連盟時代にJ・ティンバーゲン(オランダ、第1回ノーベル経済学賞受賞者の1人)と共に景気循環の国際伝播について研究するなどしたのち、国際連合傘下に誕生したIMFに移籍したのであった。そして「彼は1960年代半ば、IMF高官として、特別引出権(SDR)の創案に深く関与した。SDRは『バンコール』というケインズの示唆に由来し、基金の貸出能力を大いに拡張した」という一節が注目を引いたのである。これを読んで色めき立った経済学者たちは、「20年ルール」「30年ルール」(重要資料は20年後あるいは30年後に公開する)を意識しながら、ポラークからその当時の経緯を詳しく聴きだそうとして、論文やエッセイの執筆を依頼したり、国際会議に招待したりしたのであった。彼は原則として断ることなく、全ての依頼を引き受けたと聞く。しかし、ツィアングの叙述は否定しなかったものの、SDR創出の一件については沈黙を守ったまま、2004年に永久の眠りについた。